短編・その他

□臆病ミント
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週に一度、私は幼馴染の山岳の勉強を見ている。

山岳は今高校一年生で、私の3つ下。高校で自転車競技部に入り、楽しんでいるらしい。

楽しみすぎて、私との勉強会を忘れてしまうこともある。

ただでさえ、宮原ちゃんがよく私のところに来ては、山岳の遅刻や先生に出された課題をサボることなどをボヤいているというのに、当の本人は自転車に夢中のようだ。

けれど、あまりに赤点など多くとっていては、その部活にさえ支障をきたすかもしれない。

私はそう脅し、いや、説得した。そして、山岳は一か月、私との勉強会に無遅刻無欠席。うん、すばらしい。


「どこかわからない?」


山岳の手が止まっているのを見て、私は山岳の手元を覗き込みながら尋ねた。


「うーん、ここ」


指された場所の問題を説明する。すると、山岳は納得したようで、さらさらとプリント上にシャーペンを走らせていく。

その問題が解き終わり、山岳の手がピタリと止まった。

どうしたのだろうか。私が尋ねようとして顔を上げると、私のことをじっと見つめてきている山岳と目が合った。


「ど、どうしたの?」


驚いてすこし裏返ってしまった声をごまかすように、私は赤ペンを出して山岳の書いた答えに丸を付けた。


「何の匂い?」


くんくんと、匂いを嗅ぐように私に顔を近づける山岳。


「え?匂い?」

「うん、なんかスーッとするような匂い」


スーッと?ああ、もしかして。


「ミントかな?」

「ミント?」

「うん、先輩がくれたの」


そう言って、ポケットからミントのガムを出す。


「でも、私少し苦手なんだよね」


苦笑してそう言うと、それじゃあ、頂戴?と山岳が手を差し出してきた。

はい、と言って山岳の手の上にミントガムを置くと、山岳はうれしそうに包み紙をはがしてガムを口の中に放り込んだ。


「ミントガム、好きなの?」

「いや、べつに?」


それでもうれしそうにニコニコ笑う山岳に、私は首を傾げた。


「このガム、男にもらってたでしょ」


そう言って私に顔を近づける山岳。私は少しのけぞって、かすれた声を出した。


「なんで、知ってるの?」



 
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