短編・その他
□黄色いスイレンに包まれて
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初めてみたのは、部活をしている姿。
サングラスをかけて、なんだか怖そうな印象だった。
2回目に見たのは、移動教室のとき。
サングラスではなく、メガネをかけている姿。
それでも表情は硬く、なんだか威圧感があって取っつき難い感じ。
そんな彼が、今、私と向き合い、机を挟んだ向こう側に座っている。
「き、金城君、部活あるでしょ?後は私がやっとくから、行っていいよ・・・?」
今日は、私と金城君が日直の日。放課後残って日誌を書かなくてはならないのだが、私1人でもできるし、もうほとんど書けているのであとは提出するだけだ。
「いや、今日は日誌と、ノートもあるだろう」
そう言う金城君の目線の先には、積まれたノート。クラスメイト全員分×2だ。大分思いぞ、これは。
「あー、えと、数回に分ければ持ってけるし」
そう言う私に対して、金城君は確固として頷かない。
「俺がいれば一度で済む」
まぁそうなんですけど。
・・・。
また静寂に包まれる教室。外で活動している部活の声だけが、なんだか異様にはっきりと聞こえてくるような気がした。
「で、きた」
最後の欄を埋め、日誌を閉じる。
「大分名無しさんに書かせたな。すまない」
「いや、気にしなくていいよ」
そう言って、私たちは席から立ち、ノートを半分ずつ持とうとした。
が、ひょい、と私が運ぶはずの分まで金城君は持ってしまった。
「金城君?」
「名無しさんは日誌を持ってきてくれ」
そして教室から出て行こうとする金城君。
「名無しさん?」
何それ。
私は、顔の熱を見られないようにするためにうつむき、先に行っていた金城君を追い抜かした。
「あ、ありがと」
高校3年にして人生初の恋に落ちました。