短編・荒北

□1/1 君のため、君のだけ
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1月1日、お正月。今日は荒北君と初詣に行く約束の日だ。

私は気合を入れて、お母さんに頼んで着物を着た。

約束の場所へ行くと、荒北君はすでに来ていた。


「あけましておめでとう、荒北君」

「アー、オメデト」


ひょこ、と荒北君の背後から顔を出して言うと、荒北君は驚いた様子もなくそう返事をした。


「珍しいカッコしてんナァ」


私を上から下まで眺めて、荒北君はそう言った。


「似合う?」


少し不安になって聞くと、荒北君は平然と言った。


「動きにくそう」


と。似合うって、言ってほしかったのに。可愛いって、思ってもらいたくて着物着てきたんだけどなぁ。

少し残念に思いながらも、荒北君の横に並んで歩く。


「人、いっぱいだね」


私がそう言うと、荒北君は私の手を握った。


「え?」

「はぐれたら大変ダロォ?」

「う、うん!」


荒北君と手をつなげることがうれしくて、私は笑顔でうなずいた。

着物で、歩きにくいことを考慮してくれているのか、荒北君の歩く速度はいつもよりもゆっくりだ。


「ん?なんだ、荒北と名無しさんちゃんではないか」


そう言って私たちの前に現れたのは、東堂尽八君。


「名無しさんちゃんは着物か!可愛いな、似合うぞ!!」


そう言って笑う東堂君に、私は少しうれしくなって、頬が少し熱くなった。


「ありがとう」


東堂君は友達と来ていたみたいで、呼ばれて、すぐに行ってしまった。


「新年早々、騒がしいナァ」


少し不機嫌そうな声が、隣から聞こえてきた。


「荒北君?」


私が首を傾げて荒北君を見上げると、荒北君はムスッ、と口を一文字に結んでいた。

かと思うと、グッ、と私の手を引っ張り、人のいない場所まで連れてこられた。


「あ、あの?荒北君?」


何かの倉庫なのか、その壁に私を追いやると、荒北君は私の顔の横に手をついた。

そのままズイ、と私に顔を近づける。


「ンなカッコ、他のヤローに見せんなヨ」

「へ?」


荒北君は少し乱暴に私にキスをした。


「チッ。テメーのそんなカッコは、俺だけが知ってればいいんだヨ。バァカ」


顔をそむけて言うその言葉は少し優しくて、私はまた顔を赤くしてふふ、と笑った。


「顔、赤いよ?荒北君」

「っせ」


さっさとこんなん終わらせて帰るぞ、と言い、荒北君は私の手を引っ張った。


(こんな姿、これ以上他のヤロー共に見せてたまるか)


荒北君がそんなことを思っているなんて知らず、私はただ、来年もまた一緒に来られますように、と祈った。









 

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