短編・巻島
□1月1日
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年が明けました。私は現在、お母さんに着物を着つけてもらっています。
「はい、できた」
そう言って私の腰をポン、とたたく母。
「じゃ、デート楽しんできてね」
ニッコリと笑われ、私の顔は少し赤くなる。
今日は1月1日。お正月。恋人の巻島裕介君と、これから初詣、です。
「へ、変じゃない?」
「変じゃないわよー。とってもよく似合ってる」
ニコニコと笑っている母に、私は本当かなー?と眉を寄せながら自分の姿を何度も何度もチェックする。
すると、手提げに入れようと用意してあった携帯が鳴った。
「あ」
「彼氏さん、来たんじゃない?」
メールをチェックすると、もう家の前まで来ているとのこと。
母に冷やかされながらも、私は急いで返信をして手提げに荷物を入れて家を出た。
玄関を出る前、もう一度変なところがないか確認をして。
「いってきまーす」
そう言って玄関から出ると、巻島君が少し寒そうにマフラーで口元を隠し、ポケットに手を突っ込んで立っていた。
「あ、あけまして、おめでとうございます、巻島君」
はにかんで言う私と目が合うと、巻島君の動きが止まった。
目を大きく見開いて、私を凝視している。
「巻島君・・・?」
変だったかな?やっぱり、似合ってない?不安になって巻島君の名を呼ぶと、巻島君ははっとして、あけましておめでとう、と返した。
そして、ポケットから片手を出すと、私の手を取って歩き出した。
いつもよりも歩く速さが速い。今日は慣れない着物に下駄という格好なため、私は必死で巻島君についていこうとする。
「ま、巻島君・・・!」
このままではいずれ転んでしまう。そう思った私は、巻島君の名を呼んだ。
「あ、わ、悪ィ」
そう言って、歩く速度を遅くしてくれた巻島君。でも、私と目を合わせてくれない。
「・・・変、だったかなぁ?」
そう言ってうつむく私。涙がこぼれてしまいそうだった。
少し涙声の私に、巻島君は焦った様子で立ち止まった。
「へ、変なわけないっショ!?」
そう言った巻島君は、言いにくそうに目を泳がせた後、顔を赤くしてはっきりと言った。
「似合ってる、ショ」
その言葉だけで、私はうれしくなり、へへ、と笑った。
巻島君はまた顔を赤くして、さっきよりも少し強い力で私の手を握って歩き出した。