短編・巻島
□雑誌<私?
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「やっぱり男の人って、胸の大きい人が好きなんですか?」
巻島先輩の部屋で、私は紅茶を淹れてきてくれた先輩にそう尋ねた。
「き、急になんっショ?」
少し驚いたような、焦ったような姿に、私は少し唇を尖らせながら続けた。
「だって、先輩の好きなグラビアさんはみんな胸大きいじゃないですか」
そう言った私の後ろに置いてある雑誌を見て、先輩は、あちゃー、とでも言いたげな苦い顔をした。
「べ、別に、胸ですべてが決まるわけじゃないっショ」
ふーん、と少し冷たい視線を向ける私に、先輩は何も言えない様子。
「先輩は、目の前の私よりもこの雑誌の中のオネーサンが好きですか?」
少し詰め寄ってそう尋ねる私に、先輩はすこし目を大きく見開き、顔を赤くした。
雑誌の中の人に嫉妬するなんて、私は心が狭いのかもしれない。
先輩は男の人だし、そういうのが必要なんだろうけど、でも、やっぱりちょっと悔しい。
せめて、私に似た人だったら良かったかもしれない。あ、やっぱり嫌だからさっきのナシで。
先輩の持ってる雑誌の女の人はみんな胸が大きくてスタイルがいい。私はそんなに大きいほうではないので、やっぱりちょっと悔しいというかなんというか。
先輩に顔を近づけてじっと目を見つめる私に、先輩は観念したように溜息を吐くと、私の頭を抱くようにして先輩の中に閉じ込めた。
体の小さい私は、すっぽりと先輩の中に納まってしまう。
「せ、先輩?」
急な行動に焦る私に、先輩は静かにしろとでも言うように私を抱きしめる力を強くした。
「雑誌なんかよりも、名無しさんのほうがいいに決まってるっショ」
少し熱い吐息とともに吐き出された言葉に、私は少し顔が熱くなるのを感じた。
「でも、俺はまだ責任なんてもてる年齢じゃねェし、名無しさんのことは大切にしたい」
わかってくれるっショ?という先輩に、私はうなずくしかなかった。
「・・・もし、この雑誌の中の女の人みたいな人が先輩に迫ってきたら、」
言いかけて、遮られる。
「名無しさんのほうがいいに決まってるっショ」
きっぱりと言われた台詞に、私は少しうれしくなって、体の力を抜いて先輩に身を預けた。
それでもやっぱりちょっと嫉妬してしまうので、どうやったら胸が大きくなるかなぁ、なんて考えてしまうのは、許してほしいです。