短編・巻島

□A
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先に「きっかけなんて」をお読みください。



私は、高校入学したての頃から、好きなヤツがいる。

その名も巻島裕介。

入学式の日に、妙な髪色の人がいて、ついガン見してしまった。まぁ、向こうは気づいてなかったけど。

その日以降、私は巻島裕介という人物を観察することにした。いったいどんなヤンキーか。

そんなことを思って観察していたら、彼はどうやら部活に入ったようだ。

自転車競技部。

彼はヤンキーではなかった。

センスがかなり奇抜なだけだった。つまんないのー。

そう思って、観察をやめようと思った。けど、なぜか視線が勝手にそっちに向く。クセになってしまったのだろうか。巻島裕介という人物を観察するのが。


「名無しさんって巻島君好きだよねー」


ある日友人に言われた言葉に私は愕然とした。

そうか、私は巻島が好きだったのか。

自覚したらなんだかスッキリした。

自覚してもアタックするわけでもなく、これまで通りの日々を過ごした。

これまで通りの日々をすごしていたら、いつの間にか3年生。お受験戦争面倒臭いなー。

そして私に思いもよらぬチャンスが。

席替えだ。

巻島の後ろの席になりました。黒板見えないなー、と思ったけど、居眠りするには最適じゃね?巻島君壁になってくれるよ。彼はヤンキーでも不良でもないので、授業まじめに受けるし。寝てるとこ見たことない。偉いね。

なので私はその席に居座りました。


「黒板、見えないショ?」

「ん?あーね、ダイジョブ、ダイジョブ。居眠りするには巻島の身長があればバレない」


それが初めての会話。別段緊張なんてものもなかった。

私の言葉に巻島は呆れたようだった。

席が近くなってからというもの、私たちは結構話すようになった。

居眠りをしていた私を、授業が終われば起こすのは彼の役目。そのお礼として、私はお菓子を彼に与える。かなり一方的に。


「巻島」


そう呼べば振り返る彼。


「はい、あーん」


そう言って彼の口にポッキーを突っ込む。

おいしいかと聞いても彼は答えない。呆れたように溜息を吐かれる。


「あんま食べてばっかだと、太るっショ」

「ま、毎朝ジョギングしてるもん」

「寝坊して遅刻しそうになるからっショ。それジョギング言わないっショ」


その言葉に、私はポッキーを咥えたまま机に顎を乗せる。図星だから何も言えない。あ、机冷たくてキモチいい。

巻島はぼーっと私を見たまま動かない。いや、彼の口に突っ込んだポッキーはすでに彼によって咀嚼されているけれども。


「どしたー?」

「・・・何がっショ?」


ポッキーを食べ終えたので、新たに2本出して咥える。あー、机冷たくなくなってきたなー、なんて思いながら、目線だけを向ける。


「なんか、ぼーっとしてたから」

「なんでもないショ」


授業開始のチャイムが鳴る。

ヤベ、先生来たら怒られる。私は急いで咥えていたポッキーを咀嚼する。

咀嚼し終えると、私は軽く敬礼するようなポーズをとって、


「じゃ、私は寝るから、きっちり壁、よろしく」


いつも通りの台詞を言う。


机につっぷしながら、かすかにいつもよりも早い鼓動を感じながら、私は眠りについた。







 

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