短編・巻島
□A
1ページ/1ページ
先に「きっかけなんて」をお読みください。
私は、高校入学したての頃から、好きなヤツがいる。
その名も巻島裕介。
入学式の日に、妙な髪色の人がいて、ついガン見してしまった。まぁ、向こうは気づいてなかったけど。
その日以降、私は巻島裕介という人物を観察することにした。いったいどんなヤンキーか。
そんなことを思って観察していたら、彼はどうやら部活に入ったようだ。
自転車競技部。
彼はヤンキーではなかった。
センスがかなり奇抜なだけだった。つまんないのー。
そう思って、観察をやめようと思った。けど、なぜか視線が勝手にそっちに向く。クセになってしまったのだろうか。巻島裕介という人物を観察するのが。
「名無しさんって巻島君好きだよねー」
ある日友人に言われた言葉に私は愕然とした。
そうか、私は巻島が好きだったのか。
自覚したらなんだかスッキリした。
自覚してもアタックするわけでもなく、これまで通りの日々を過ごした。
これまで通りの日々をすごしていたら、いつの間にか3年生。お受験戦争面倒臭いなー。
そして私に思いもよらぬチャンスが。
席替えだ。
巻島の後ろの席になりました。黒板見えないなー、と思ったけど、居眠りするには最適じゃね?巻島君壁になってくれるよ。彼はヤンキーでも不良でもないので、授業まじめに受けるし。寝てるとこ見たことない。偉いね。
なので私はその席に居座りました。
「黒板、見えないショ?」
「ん?あーね、ダイジョブ、ダイジョブ。居眠りするには巻島の身長があればバレない」
それが初めての会話。別段緊張なんてものもなかった。
私の言葉に巻島は呆れたようだった。
席が近くなってからというもの、私たちは結構話すようになった。
居眠りをしていた私を、授業が終われば起こすのは彼の役目。そのお礼として、私はお菓子を彼に与える。かなり一方的に。
「巻島」
そう呼べば振り返る彼。
「はい、あーん」
そう言って彼の口にポッキーを突っ込む。
おいしいかと聞いても彼は答えない。呆れたように溜息を吐かれる。
「あんま食べてばっかだと、太るっショ」
「ま、毎朝ジョギングしてるもん」
「寝坊して遅刻しそうになるからっショ。それジョギング言わないっショ」
その言葉に、私はポッキーを咥えたまま机に顎を乗せる。図星だから何も言えない。あ、机冷たくてキモチいい。
巻島はぼーっと私を見たまま動かない。いや、彼の口に突っ込んだポッキーはすでに彼によって咀嚼されているけれども。
「どしたー?」
「・・・何がっショ?」
ポッキーを食べ終えたので、新たに2本出して咥える。あー、机冷たくなくなってきたなー、なんて思いながら、目線だけを向ける。
「なんか、ぼーっとしてたから」
「なんでもないショ」
授業開始のチャイムが鳴る。
ヤベ、先生来たら怒られる。私は急いで咥えていたポッキーを咀嚼する。
咀嚼し終えると、私は軽く敬礼するようなポーズをとって、
「じゃ、私は寝るから、きっちり壁、よろしく」
いつも通りの台詞を言う。
机につっぷしながら、かすかにいつもよりも早い鼓動を感じながら、私は眠りについた。