短編・巻島

□きっかけなんて
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「巻島」


呼ばれて、俺は振り向く。


「はい、あーん」


口に突っ込まれたのは、ポッキー。


「どう?おいしい?」


そう言ってニヤリと笑う相手は、同じクラスメイトで、俺の後ろの席の名無しさん名無しさん。

名無しさんの身長は低く、ギリギリ150代あるくらいだ。

そのため、俺の後ろの席に決まったとき、席を移動するかと思った。けれどコイツは何も言わずにその席にとどまった。

後になって聞いてみれば、俺の後ろの席なら居眠りしてるのがバレないだろうから、らしい。身長的に。

名無しさんはもう一本ポッキーを出すと、今度は自分の口に入れた。


「あんま食べてばっかだと、太るっショ」

「ま、毎朝ジョギングしてるもん」

「寝坊して遅刻しそうになるからっショ。それジョギング言わないっショ」


ポッキーを口に咥えたまま机に顎を乗せて唇を尖らせる姿は、子供っぽく思えた。

そんな名無しさんのことが、俺はどうやら好きらしかった。

いつの間に好きになったかなんてわからない。きっかけがあるとすれば、席替えだろうけれど、明確な理由を問われれば、わからない。


「どしたー?」

「・・・何がっショ?」


先ほどのポッキーを食べ終え、今度は新たなポッキーを2本咥えながらさっきの姿勢のまま上目使いに聞いてきた。きっと、上目使いだとかそんなことをコイツは意識してない。ただ、その姿勢が楽だっただけだろうな。


「なんか、ぼーっとしてたから」

「なんでもないショ」


授業開始のチャイムが鳴る。

名無しさんは、ヤベ、と言いつつ、咥えていたポッキーを急いで咀嚼している。


「じゃ、私は寝るから、きっちり壁、よろしく」


そう言い、こいつはさっそく居眠りを始めた。授業開始の挨拶くらいは参加しろよ。

本当に、何で俺はコイツが好きなんだろうか。不思議でならない。




 

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