短編・巻島
□C
1ページ/2ページ
先に「優しい人B」をお読みください。
俺には、1年のときから好きなヤツがいる。
そいつは、人見知りってのと、俺のことを怖がってるってので、近づいてこない。
そいつを好きになったきっかけは、些細なことだった。
朝、いつもよりも早く登校した俺は、教室に向かった。
教室では、日直でもないのに黒板をきれいにしたり、黒板の日付を変えたりしてる
名無しさんさんの姿があった。
そして、名無しさんさんは、教室に飾られている花の花瓶の水を替え、そして、笑った。
花を見て、すごく、きれいに。
俺は、その瞬間恋に落ちた。
赤くなる顔を、口元を片手で覆うことで隠そうとし、この顔を見られないようにするために、そっと教室を離れたんだ。
それから、俺と名無しさんさんは、3年間同じクラスだった。
でも、話す機会はない。
そんな俺に、チャンスが巡ってきた。席替えだ。そこで、偶然にも隣の席になったのだ。
そして、隣の席になってから最初の授業が英語。名無しさんさんが英語が苦手なのは、3年間同じクラスになりゃわかることだ。
でも、名無しさんさんは苦手だからと、英語の予習は毎回欠かさずにやってくる。といっても、教科書を和訳してくる程度のものだけだが。
そんな名無しさんさんが指された。本文を和訳しろというものではなく、“That”の示す意味を答えろ。
名無しさんさんはテンパって、答えられずにいる。俺は、そっとノートをちぎると、答えを書いて隣の席の机に置いた。
「らけっと・・・?」
名無しさんさんは、なんとか答えることができた。
「あの、あ、ありがとう・・・」
それが、俺と名無しさんさんの初しゃべりだった。俺は、少し動揺して、あー、としか言えなかった。
その日から、俺は隣から視線を感じるようになった。名無しさんさんの真意がわからないまま、日々は過ぎていく。
けど、ここまでくると、俺は自惚れてもいいのだろうかと思うようになってくる。
名無しさんさんも、俺のことを好きなんじゃないかって・・・。
そしてそれからしばらくして、名無しさんさんは今度はまったく俺のほうを見なくなった。
それどころか、俺を避けるようになった。
そして、聞いてしまった。
「だぁから、告白するしかないでしょうが」
名無しさんさんの友人が、名無しさんさんにそう言っているのを。
名無しさんさんは顔を真っ赤にして唸っている。
俺は、それ以上その場所にいられなかった。
→