短編・巻島

□C
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先に「優しい人B」をお読みください。



俺には、1年のときから好きなヤツがいる。

そいつは、人見知りってのと、俺のことを怖がってるってので、近づいてこない。

そいつを好きになったきっかけは、些細なことだった。

朝、いつもよりも早く登校した俺は、教室に向かった。

教室では、日直でもないのに黒板をきれいにしたり、黒板の日付を変えたりしてる

名無しさんさんの姿があった。

そして、名無しさんさんは、教室に飾られている花の花瓶の水を替え、そして、笑った。

花を見て、すごく、きれいに。

俺は、その瞬間恋に落ちた。

赤くなる顔を、口元を片手で覆うことで隠そうとし、この顔を見られないようにするために、そっと教室を離れたんだ。

それから、俺と名無しさんさんは、3年間同じクラスだった。

でも、話す機会はない。

そんな俺に、チャンスが巡ってきた。席替えだ。そこで、偶然にも隣の席になったのだ。

そして、隣の席になってから最初の授業が英語。名無しさんさんが英語が苦手なのは、3年間同じクラスになりゃわかることだ。

でも、名無しさんさんは苦手だからと、英語の予習は毎回欠かさずにやってくる。といっても、教科書を和訳してくる程度のものだけだが。

そんな名無しさんさんが指された。本文を和訳しろというものではなく、“That”の示す意味を答えろ。

名無しさんさんはテンパって、答えられずにいる。俺は、そっとノートをちぎると、答えを書いて隣の席の机に置いた。


「らけっと・・・?」


名無しさんさんは、なんとか答えることができた。


「あの、あ、ありがとう・・・」


それが、俺と名無しさんさんの初しゃべりだった。俺は、少し動揺して、あー、としか言えなかった。

その日から、俺は隣から視線を感じるようになった。名無しさんさんの真意がわからないまま、日々は過ぎていく。

けど、ここまでくると、俺は自惚れてもいいのだろうかと思うようになってくる。

名無しさんさんも、俺のことを好きなんじゃないかって・・・。

そしてそれからしばらくして、名無しさんさんは今度はまったく俺のほうを見なくなった。

それどころか、俺を避けるようになった。
そして、聞いてしまった。


「だぁから、告白するしかないでしょうが」


名無しさんさんの友人が、名無しさんさんにそう言っているのを。

名無しさんさんは顔を真っ赤にして唸っている。

俺は、それ以上その場所にいられなかった。


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