長編*
□食べてもいいよ【前】
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“知ってる?この森の神社の咄”
“知ってるよ!人喰い妖怪がいるんでしょ。”
“そうそう。近づいたら食べられちゃうって!”
“なんでも水色の化け物らしいよ。”
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「また来たんですか、黄瀬君。」
「うん。黒子っちに会いたくて。」
そう言って笑う蜂蜜色の彼は、あの噂を全くと言っていいほど気にしていない。
毎日毎日わざわざ長い階段を上がり、この古びた鳥居をくぐってこの呪われた神社を訪ねてくるのである。それこそ何年間も。
拝殿に居た黒子は腰を上げ、参道を歩いてくる黄瀬を出迎えた。
「いい加減本当に食べちゃいますよ。僕の噂知らないわけないでしょう?」
「黒子っちなら喜んで食べられるっス。」
「気持ち悪い人ですね。」
「ヒドッ」
酷いと言いつつへらへらと笑っている黄瀬に呆れる。いつでもこう言って僕のペースを崩すのだから。
「それでも、神殿じゃなくて拝殿にいるってことは少なくとも俺のこと待ってたんでしょ。」
「僕は君じゃなくてバニラシェイクを待ってるんです。」
「ヒドッ」
先程と比べて若干悲しんでいる感じがするので隠れてガッツポーズをする。ざまぁです。
「てか黒子っちホントバニラシェイク好きっスよねえ。」
「ええ、あの日君がくれた日からこの味が忘れられないんです。」
バニラシェイクを受け取り、2人して賽銭箱の背後の石畳に腰掛ける。
ここからの景色が好きだ。周りの草木に囲まれ、孤立するこの空間が。ボロボロの鳥居の後ろに広がる茜色の空が。
今日は一段と綺麗な茜色だと、空を見上げ息を吐いた。
ああ、彼に出会ったあの日を思い出す。