復活小説

□その1
67ページ/69ページ

冗長なキス(初ツナ/捏造未来)






綱吉はやっと処理し終えた書類を目の前に、大きく溜息を吐いた。
今日中に終わらないかもしれないと危ぶんだ……いや、途中で諦めかけたものであるが、何とか捌ききるに至ったのである。

握っていたペンを机の上に投げ、大きく伸びをした。
戦闘的な意味ではないが、死ぬ気……いわゆる死に物狂いで一仕事終えたのだ。
疲れないはずもないし、何より腹が減った。
グゥと大きな音をたてた腹を押さえ、綱吉は立ち上がる。
とりあえず、何か腹に入れなければ死んでしまいかねない。 

まず綱吉が向かった先は給仕室。
何か食べるものがあればと思っていたのだが、そんなものは都合よく存在しなかった。
そして時間が時間である故にアスの準備担当であった給仕の下っ端が数人残っているだけである。

「ボス! どうかなさったんですか!?」

そんな中、一人の給仕が綱吉に気づき、慌てて入り口に近づく。
普段、綱吉は多大な書類に埋もれているため、自ら出向くことはまずない。
基本的には綱吉のことに対しては以上に気が効く獄寺がよく給仕室に顔を出すため、給仕には獄寺と懇ろな関係にいる者が多々いる。
その要員は、ほとんどが綱吉を神聖化しているものばかりだが。
もう、何かの新興宗教のような団体になりつつあるそれに、ボンゴレの皆は苦笑するしかない。

「何か食べるものあったらなと思ったんだけど」

邪魔してごめんね、と目の前をせわしなく行き交う数人を視界に、綱吉は頭を下げた。
そんな彼に眼をかっぴらくのが給仕たちだ。
自分たちが仕えている組織の最頂点にいる者が給仕に頭を下げるなどと、本来あってはならないことである。
まあ、こんな部下思いのボスがボンゴレの売りであるのだが。

そう、優しくてさらに強い綱吉がファミリーの誇りである。
そしてファミリーだけでなく、他のファミリーにも綱吉に憧れている者は大勢おり、綱吉と関わり合うために、と同盟を申し込んでくる者も少なくない。
中にはあくどい事をしていたファミリーもいたが、綱吉のまるで大空のように包み込む優しさに改心したファミリーもおり、エストラーネオファミリーがその筆頭だ。

だが、エストラーネオファミリーとの同盟関しては骸が猛反対したが、ボスが絶対的な忠誠の証としてファミリーが家宝としてきたリングを提供してきたのだ。
骸もさすがにこの行動には度肝を抜いた。
あの、自分や犬たちを含めたファミリーの子供達を人体実験に使っていた人物と同一人物とはとても信じがたい。

話に聞く限り、一度ボンゴレに嘘の報告をして同盟を申し込んだらしいのだ。
そして当たり前だがボンゴレ側にバレ、綱吉がブチギレた。
人の命をなんだと思っている、と。 

そして綱吉にぶちのめされたドン・エストラーネオは改心した。
敵対するもの、自分たちを貶めん者どもは遠慮なく叩きのめすが、戦意を喪失した者たちは武器を捨て、その場から去ることを条件に命は奪わない。
マフィアの世界においてその甘さは命取りにもなりえるが、綱吉はその態度改めることはなかった。
無用な命は奪わない、それこそが大空の優しさである。

権力を追求するために手段を選ばないマフィア界には珍しいその考え。
裏切りと報復がほとんどを占めているこの世界。
そんな中で綱吉のこの優しさに心撃たれた者は少なくないのである。
下手をしたらファミリー共々惨殺されていたかもしれない。
が、相手が綱吉であったため、自らだけでなくファミリーの命は助かった。
そんな命の恩人をどうして恨むことができようか。

「差し出がましいようですが私たちでよければ何かお作りしましょうか?」
「へ、悪いよ!! カップ麺でも食べるから気にしないで!」

綱吉が給仕の申し出を慌てて断ると、目の前にいる給仕は眼をかっぴらいた。
そして綱吉の肩を掴んで揺さぶるのだ。
意味がわからなくて、綱吉は苦笑するしかない。

「ボスがそんなもの食べちゃいけません!」

揺さぶりながら綱吉は目を見張る。
本当に意味がわからない。
ボスだからカップ麺を食べるなというのはカップ麺大国である日本に対する冒涜か。

「ちょ、とりあえず離して……」
「俺達はボスにそんな不健康なもの採って欲しくないんだよ! いつまでも健康で幸せでいてほしいんだ!」

敬語を忘れた給仕。
さすがマフィア、麗しきファミリー愛である。
そして綱吉はその勢いに負けてこれからインスタント関係の食事を採らないことを約束させられたのである。
……守るわけはないのだが。






次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ