復活小説

□その1
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「さあ私は言ったぞ!」(初ツナ/学パラ)






例日の如く、綱吉は大きく欠伸をしながら学校へと向かっていた。
昨日の勤務では一人が急な体調不良で休みだったため、1時間以上残業したのだ。
あ、0時をまわってからだから今日のことか。

軽い体調不良だったら綱吉ですら怒り狂うが、店舗に電話をよこした時の辛そうな声は絶対に本物だ。
テストの山勘は外れるが、こういった勘は外したことはない。
そして休んだ綱吉と同年の入江正一という少年は、かつて発熱しているときに勤務に出て倒れかけたこともあるので、深夜の責任者である白蘭という青年は強制的に勤務を外したに近かった。
彼曰く、この前みたいにまた倒れられたらそっちの方が面倒くさい。実際に綱吉もそう思う。

そして臨時に他の非番にも声をかけたが都合がつかず、一人欠けるという結構ギリギリの状態で勤務を乗り切ったのだった。
色々と大変だし、今日の残業のように辛いこともあるが、あのアットホームで暖かい職場が綱吉は大好きだった。

しかし、そんな激務だったにかかわらず、目覚めがよすぎた。
いつもは遅刻ギリギリまで寝入っている綱吉だが、今日は何の悪戯か、30分ほど早く目が覚めたのだ。
また眠ろうと目をつむったが睡魔は襲ってこず、また眠ってしまったら今度は起きるのが苦痛になるだろうと、そのまま少し早い登校へと乗り出した。

朝に二度寝ができなかったからといって眠くないわけではなく、綱吉はまた大きく欠伸をした。
むにゃ、と唇を動かした直後、背中に大きな衝撃が。
目を白黒させながら後ろを振り返ると、ニヤリと悪意に満ちているであろう笑みを浮かべたリボーンが仁王立ちしていた。

「いったいな〜、何すんだよもう〜」
「俺より早いなんて珍しいじゃねーか」

綱吉は届くところまでだが、背中を押さえた。
リボーンが鞄の取っ手を掴み、前後に揺すっているところからして、きっと鞄で軽く殴られたのだろう。
いや、彼からしたら軽く殴ったつもりであっても、一般人の渾身の力といっても差し支えないほどの力であるのだが。

「もう一回叩くか?」
「余計なお世話!!」

目が覚めるだろう?
とリボーンは鞄を再び揺らした。
綱吉は眠い目を擦りながらもリボーンを睨みつける。
その表情は決して迫力があるものとは言い切れず、リボーンは鼻を鳴らして一蹴した。

「眠そうだな」
「正一君休みだったの。だからちょっと多めに残業してて……」

あまりに大きな欠伸を連発している綱吉を心配し、リボーンは校門へと向かっていく綱吉の前に立ちはだかるように顔をのぞき込んだ。
やっぱり自分の友人と呼ぶにはもったいないななどと、綱吉は場違いなことを考えながら歩を緩めリボーンを見る。
もしかしたら友人と呼べる存在がいなかった自分に、同情して友人関係に落ち着いたのではないかと。
だってイケメンだし、自分とタイプが違いすぎる。
そう、例えるならばまるで貴族と奴隷。

「……いって!!」
「いらねーこと考えてんじゃねーぞ」
「もうさっきから何なんだって!!」

いきなり綱吉の額を襲った鋭い痛み。
これはわかる、絶対にデコピンだ。
綱吉は箇所をさすりながらリボーンを再び睨む。
先程と違って真正面の自分より高い位置にある顔に目線をやるのだから、いわゆる上目遣いになり、リボーンは内心言葉につまった。
多少前屈みになるのもご愛敬、しょうがないことである。

「俺は……!!」
「僕の前で風紀乱さないでよ、死神。ていうか綱吉虐めないでくれない?」

綱吉にきちんとした自分の意志で友人関係を結んでいるんだ、とそう告げようとしたリボーンの首元に冷たい物が押し当てられた。
もちろんナイフなどではないが、風紀委員長である雲雀恭弥がリボーンにトンファーの尖端を押し当てている。
ちんたらでも歩いていたため、いつの間にか校門前まで歩が進んでいたようだ。

「何すんだ、雲雀」
「ワオ、先輩呼び捨て? っていうか高校にもなって二つ名が“黒の死神”とか厨二病引きずっちゃって」
「二つ名は周りがつけたんであって、俺の意志じゃねー!!」
「顔がよくても頭がねぇ」

残念だよね、そう綱吉に同意を求める雲雀。
綱吉は頷くこともできず、ただ苦笑を浮かべているしかできない。

「うるせーぞ!!」

あ、リボーンがキレた。
綱吉と雲雀だけでなく、現在登校中の他の生徒たちもそう思った。
そしてこの場に居合わせてしまった自分の運命を嘆くのだ。
ただ、雲雀は嬉しそうにトンファーを構えなおした。
殺り合う気満々である。その空気に顔を青くした綱吉は叫んだ。

「リボーン!! 教えて欲しい問題あるんだった!!」

言外に早く教室に行こう、とリボーンを急かす綱吉は、無意識に彼の腕を掴んでいた。
ふっ、と雲雀に勝ち誇ったかのような笑みを浮かべ、ふたりは玄関へと消えていく。
雲雀は地団駄を踏んだ。
一方、悲しくも居合わせてしまっていた一般の生徒達は目をひん向いた。
あんなトロくさそうな少年が、あの冷徹で有名な黒の死神の怒りを止めたのである。
まあ、クラス内ひいては学年内で有名な二人ではあるのだが、他学年はまだまだ二人の関係性を知らないようである。
いや、リボーンは知っているが綱吉の存在を知らない者が多い、と言い換えた方が当を得ているかもしれない。






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