book 3

□壱
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肌寒い冬。
こんなんだと学校へ向かうのが嫌になる。
牡丹はマフラーに顔を埋めて歩く。
「牡丹ちゃーん!」
あら、と牡丹は振り返る。
幼馴染みのさつきが元気良く走ってくる。
「おはよぉ、さっちゃん。」
「おはよ!あ、」
と、彼女達の前方にはもう一人の幼馴染み。
「大ちゃーん。おはよぉー。」
「あー・・・?」
彼は眠たそうな目を擦り、こちらに向く。
「青峰君!今日は部活出てよね!!」
「うるせぇなぁ・・・。」
「なんや大ちゃん。この前真面目に出とったやん。」
ウィンターカップの初戦で黒子に負けた青峰はボチボチ練習に顔を出し始めていた。
さつきはそれを素直に喜んでいるし。
二人を見守ってきた牡丹もとても嬉しい。
そして世間は洛山VS誠凛という決勝戦の名残が今も燻っている。
誠凛の勝ちだった。
つまり黒子は赤司に勝ったのだ。つい最近だが。
「今度、キセキの皆で遊びたいなぁ。」
「いいね!行こう行こう!!」
「だりぃよ。」
「そないなこと言ってホンマは行きたいんやろぉ〜。」
さつきと一緒に青峰をからかいながら登校する。
とても楽しい時間だ。
青峰も顔は笑っている。



この楽観を裏切る出来事が後に起こることなど、誰も予想などできなかった。


何かを感じた。
得体のしれない何かを感じた。
「牡丹ちゃん・・・?」
「おい、どうした。」
現在、放課後。
日が傾き始めている頃。
夕焼け色に染まる廊下で、牡丹は二人の腕を掴んで離さなかった。
「どうしたの?具合悪いの?」
「これから部活なんだよ。」
「青峰君がそんなこと言うと変。」
「ああ!?」
牡丹は真剣な瞳で二人を見つめる。
そして、いつもより低い声で呟いた。
「離れたら、あかん。」
青峰とさつきは首を傾げる。
と。


チリン、




鈴のような音が響いた。
その音は遠くから、だんだん近づいているように聴こえる。
それもただ聴こえているんじゃない。
頭の中で響くような。
「なんだよこれ、」
「え、え!?」
「二人とも、うちの手握って。」
二人とも牡丹の手を握る。
牡丹は眉間にシワを寄せる。
「絶対に手ぇ離さんように。」
こんなに怖い顔をした彼女を見たことあるだろうか。と青峰とさつきは思う。
チリン、と一際大きく鈴の音が鳴って、そのまま意識は途切れた。








「ぅ、」
痛い。左手。
左手の痛みに青峰は目を開ける。
牡丹が既に起き上がっている。
左手の痛みは彼女が手を力強く握っているため。
「いてぇよ。」
「あ、大ちゃん。おはよぉさん。」
手を離してくれない。
手の力強さとは裏腹にいつものように優しく笑う。
さつきはまだ目を開けない。
「ここ、どこだよ。」
3人は見知らぬ路地に居た。
路地、と言っても周りは田んぼ。
田舎町だ。
自分たちは東京、しかも校内に居たのに。
「夢か?」
「夢なら感覚あらへんやろ。」
牡丹は辺りを見回し、そしてようやく青峰とさつきの手を離す。
「さっちゃん。起きて。さっちゃん。」
「う・・・、あれ?ここ、」
さつきも動揺して辺りを見回す。
牡丹はしきりに周りを見渡す。
いつもフワフワしていて無防備な彼女からは想像できない姿だ。
まさに隙がない。
「大ちゃん、さっちゃん。歩くで。」
あと、と付け足す。
「絶対にうちから離れんように。」
真剣な彼女に二人は頷くしかなかった。
三人で歩き出す。
どこを見渡しても田んぼと林。
民家はいくつかある。
でも、
「人、いないね。」
「道とか聴いた方がいいんじゃねぇの?」
「人なんかおらん。」
いつになく低い声で喋る牡丹に二人は焦る。
怒っているのだろうか。
不安になる。
しばらく歩くと神社を見つけた。
牡丹はそれに真っ直ぐ歩いていく。
「二人とも、」
しばらく振り向かなかった牡丹がいつものように笑う。
それだけで安心した。
「この神社の境内から出んといて。絶対に。」
「出ないでって、お前どっか行くの?」
「ちょっとな。その辺見てくるだけさかい。」
「三人じゃダメなの?」
牡丹は苦笑して、堪忍。と謝る。
階段を降りようとする時、二人を振り返った。
「この鳥居から絶対に出ない。それと、なんか危ないって感じたら、そこ入って。」
そこ、と指差すのは神様が祀ってあるところで。
「入っていいの?」
「うん。だから、無事でいて。」
牡丹は颯爽と階段を降りていく。
取り残された二人。
「危ないことってなんだよ。気味わりぃ。」
「でも、なんか牡丹ちゃん、いつもと違くて聴きづらかったな。」
さつきは不安を拭うように青峰の裾を掴む。
二人はとりあえず石段に腰を降ろす事にした。
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