夏色の恋

□夜の誓い
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夜になって朝より温度が下がり昼間の暑さが嘘のように冷たくなっていた。
だからって別に寒くなんて無くちょうどいい気候で涼しく心地よい…
昼間もこんな風ならきっと野球もやりやすそうなのにと1人苦笑をしているとガランコトンというような音が聞こえてきた。


『(自動販売機?)』


近くにあった自動販売機を思い出してたぶん誰かが買ったのだと自動販売機の方を向かう。
もしかしたらと思って見た光景にはやはり彼がたっていた。
本当に当たってるなんて運がいいのか感がいいのか…


「あ!雪弥!」


1人で考えていると自動販売機で飲み物を買っていた人物は俺の方へ寄ってくる。
両手いっぱいに持った飲み物は彼がゲームかなにかに負けてパシられているであろう証拠である。


『あー…また負けたの?…持てる?』

「次こそは勝つ!あぁ!平気だ!」


ニコニコと笑う幼馴染みである彼…栄純から俺はそっと持っている飲み物を持つ。


「あ!大丈夫だって!」

『栄純の大丈夫は心配だ』


そう言って飲み物を持っていないほうの手で栄純の頭を撫でる。
ガキ扱いすんな!って照れながら怒るのはいつも通りだからそんな風にまた怒るのかと見ていると何故か大人しく下を向いている。
どうしたんだろうか。


『栄純?』


名前を呼べばハッと我に帰ったような顔をして俺を見る。
何かあったのは間違いない。


『…嫌な事でもあった?』

「…………別に…」

『……嫌なら言わなくていいよ。言いたくない事だってあるだろうし』

「…」


下を向いたまま顔を上げない栄純の頭を優しい手つきで撫でる。
さっきまでの元気はどうやら無理をして笑っていたようだ。
幼馴染みといえども全てがわかるわけではない。
嘘が下手な彼ならすぐにわかる筈なのにどうしてわからなかったのか不思議だ。


「…雪弥が……」

『俺が?』


急にボソりと俺の名前を言う声が聞こえてきた。
聞き返してみると地面に落ちていく水の事に気づいた。
こんな風に感情をかえているのが俺であってくれてらって心の底から思えてくる。


「雪弥が………死ぬ夢を見た……」

『うん…』

「俺がいつまでも雪弥に甘えてるから……」

『うん…』

「病気なのに……辛い筈なのに…っ…俺に着いてきてくれて…」

『うん…』

「なのに俺何も……雪弥にやってあげれてない…」

『…』


ポタリポタリと地面に落ちていく涙は間違いなく彼のものであり、自分の事でこんな風な感情にさせて、泣かせている事に少しだけ嬉しさを覚えた。


『俺は栄純からいろんなものしてもらったよ』

「…え?」

『野球の楽しさ教えてくれたり……俺をいつも笑顔にしてくれたり……いつも一緒にいてくれたり……数え切れないぐらいいろんな事してもらってる……』

「そんなの……」

「対したことない……って?…そんなことない……少なくとも俺にとっては凄く嬉しいことだし楽しい……本当に栄純に会えてよかったって…今でも思うんだ」


栄純みたいに綺麗な笑顔ではないかもしれないけど精一杯の笑顔をしてみた。
この気持ちが……全てではなくていいから、少しでも……少しずつでも届いていったら……そう願ってしまう僕は馬鹿なのかもしれない。
でも、そんな馬鹿でも良かった。
君とこうして触れ合えるのなら……


「俺……もっ……俺も!雪弥と一緒に入れて…出会えて……良かった!」


泣きながらもこっちを見てそう言う栄純に同じだと言って笑いかける。
そうすれば栄純もたちまち笑顔になった。そう、その顔だ…
君には笑顔が一番似合う。
小さい頃からこの気持ちは変わらない。
好きで好きで好きで仕方なくて…
ずっと叶わない恋で…
実って欲しい筈なのにそれを望んでるようで望んでなくて…
栄純への本当の気持ちが自分でもわからない…
ただ、ただ彼に俺の気持ちを知ってもらうのが怖くて怖くて仕方ない。
その筈なのに気が付いたら栄純を抱きしめていた。


「え!?ゆ、雪弥!?」


あたふたとしながらも栄純は俺を突き飛ばしたりする事はなくて、顔を赤くするだけだった。
その様子が凄く嬉しくて俺はまた少しぎゅっと力を入れる。


『ははっ…耳まで赤いよ』

「!!…し、仕方ないだろ!き、急にそんなこと…されたら…」


かあぁっと音が出そうな勢いで顔を更に赤くしていく…
可愛いな…ほんと。


『栄純は…こういうの嫌?』

「……嫌じゃねぇ…けど…」

『けど?』

「期待しちまうから…」

『期待…?』

「あ!やっ、ちがっ、あっと…その!えっと…」

『…』


神様…もし神様がいるなら俺に勇気が欲しい…
もし、…もしもその期待というものが俺が考えてる物なら…
俺にしかしてあげれない事なら俺は…


『すっ…き…』

「!!ゆ、…」

『ずっと…ずっと前から…好きでした』


栄純が俺の名前を呼ぶ前に俺は自分の言いたいことを言った…
というより言ってしまった…
もし、俺の思っている考えと…アイツが俺の事好きなんではという考えが…違っていたらどうなってしまうのだろう…
少し怖いと思う反面その時は仕方ないという気持ちで溢れた。
後悔なんてない…
どうせ…誰かに取られてしまうのなら…それなら…もう…


「…俺…も……」

『!!』


小さい声で聞こえてきた言葉は間違いなく俺の欲しかった言葉だった。
ずっとずっと…待っていた言葉だった。


『夢じゃないんだよね…?』


夢ならば覚めないで欲しい。
そう思って聞いてみると栄純はぎゅっと俺の手を握った。
その手はとてもとても温かくて、心までも温かくてなっていく…


「夢じゃない…だろ?」


ニッと恥ずかしそうに笑う栄純に俺までもが顔を赤くしてしまった。
何でこんなにも可愛いんだ…


「顔真っ赤」

『栄純もね』


2人で指をさして笑いあった。
昔も今も変わらなくて、いつもと同じに見えてもそこには少し違う気持ちが入り交じっている。
前よりも温かくてドキドキするものが。


『でも…本当に俺なんかでいいの?』


俺は対した奴でもないし、病気だし、ましてや男であるわけだし…
そう付け足すと栄純はきょとんとした顔をした。


「何言ってるんだよ。俺は雪弥なんかじゃなくて雪弥がいいの…ずっと……俺だってずっと好きだった!中学の時から…」

『残念…俺は小学生の時から好きだったよ』

「えぇ!?う、嘘だろ!?」

『残念ながら本当です』


してやったりというようにニヤリと笑って言うとむすっと栄純が不満そうな顔をした。
でも中学の頃から俺の事好きでいてくれてたなんて知らなかった。
もっと早く気づけてたらな……って思うもののこうやって2人で抱きしめあったりできるのならもうなんでもいいと思えてくる。


「あ!いっけねぇ!パシられてたの忘れてた!」


あ、そういえば……と俺自身も忘れていた。
うわぁ、どうしようとショックを受けていた栄純だったけどまぁ、仕方ないかと言って俺の持っていたジュースを取る。


『あ、俺も持っていくよ、持ちにくいだろ?』

「へーきへーき!今なら何個でもモテる気がする」


ニッと歯を見せて笑う栄純はさっきまで元気のなかった栄純とは大違いだ。


『でも、俺のせいで遅れたわけだし……』

「大丈夫だって。怒られても今日は何も思わない、だって……」

『だって?』

「雪弥と両想いになれたから……雪弥が俺の事好きでいてくれるのなら……それぐらいの不幸いくらだってもらう!」


ニカッと笑う栄純。
この子に羞恥心という言葉ないのだろうか……
よくも、そんな恥ずかしい言葉を……
だけどそんな恥ずかしい言葉は嬉しくて嬉しくて……栄純が傍にいてくれれば……この人さえいてくれればもう何もいらない気がした。


「じゃあ行ってくる!すぐ戻ってくるから」

『うん、いってらつしゃい』


走って寮に戻っていく栄純の後ろ姿は誰よりも綺麗で、誰よりも愛おしく見えた。



『あーあ、早く帰ってこないかな』


栄純の帰りが待ち遠しくてそっと笑をこぼした。




End
 

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