独奏の堕天使

□★七歳〜八歳編★終わり
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〜アーロンSide〜


遂にこの時が来てしまった。

目の前にはブラスカ様と面影を残しつつも異形と化したジェクトの姿。
胸からアイツが旅の始めから使っている大剣が巨大化したような武器が出てきたから間違いないだろう。

そして腕には傷付き、ブラスカ様を庇って気絶したレイン。
いつもと変わらない筈なのに今だけはずっしりと腕にのし掛かってくるレインの体。
きっと精神的な問題と言うやつだろう。


「っブラスカ様!ジェクト!」


俺は二人の名前を叫んだ。
ジェクトはもう『シン』と戦っていたが俺の声に反応して、振り向いてくれた。


やはり、ジェクトだ。


認めたくなかったがやはり真実なのだと思い知らされる。
ブラスカ様もこちらを向いて、いつもと変わらぬ笑顔を俺に向けた。



『アーロン。』



ジェクトが俺の名前を呼んだ。
いや、気のせいだったり空耳なのかもしれないが。

『なーに湿気たツラしてんだよ、おめぇらしくねぇ。』

ジェクトが言った気がした。

「………っ悪い。」

今にでも泣きそうな掠れた声で俺は答えた。
それを聞き取ったのか、ジェクトは『シン』の方を向き、先程まで攻撃を受け止めていた剣を振り上げ、『シン』に斬りかかった。

「アーロン。」

ブラスカ様が俺の名前を呼んだ。

「ブラスカ……様……。」

「全く、いつまで経っても変わらないね。最後くらい対等の友人として接してくれないか?」

「っ…………。」

最後……なんて、言わないで下さい。

「頼むよ。」

「ブラスカ……。」

俺は初めて彼の名前を敬称無しで呼んだ。

「ありがとう、アーロン。」

「あっ……。」

そう言ったブラスカ様…いや、ブラスカは俺に背を向けた。



その後、俺は二人の戦いを黙って見ていた。
かなり時間が経ったと思うがそれは気のせいだろう。
そして遂に、ブラスカとジェクトが『シン』を倒した。

『シン』が幻光虫となり空に散っていく。
その光景はまさに神秘的で、とても綺麗だ。
その光の中、俺はあるものを見た。

赤黒い小さな(と、言っても『シン』と比較しているから実際は分からない)塊の様な光がジェクトの体に入っていくのを。

次の瞬間

ジェクトは大地を震わすほどの咆哮………いや、叫び声を上げた。



『ぐっ…ああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあ!!!!』



人の物ではない叫び声の中にジェクトの苦しむ声が聞こえる。
そしてブラスカは地面に倒れ、幻光虫と化した。


…………何故だ、

何故ジェクトが叫んでいる。

俺は不思議に思い、取り敢えずレインを地面に降ろしてから上着をかけ、ジェクトの元へ走った。




走っている途中で咆哮は止んだ。
そのかわりジェクトが……いや、召喚獣が消えた。
全て消えたのかと思ったが空をさ迷う幻光虫の中にジェクトが居た。
召喚獣ではない、ジェクトが。
気絶をしているのか、まさかとは思うが死んでしまっているのかは分からないがジェクトは全く動かずそのままナギ平原北の谷へと落ちていった。

ジェクトに続くかのように辺りを舞っていた幻光虫が谷へ吸い込まれるように進んで行った。
俺は何が起こっているのか理解できず、取り敢えず谷を覗きこんだ。


「なんだ………これは………」

谷を覗きこんだ俺は唖然とした。
幻光虫がジェクトを中心とし、集まって何かを型どっているのだ。

何か?

いや、この形は………

「…シ…………ン………?」

俺の言葉を待っていたのか、その直後に幻光虫は『シン』となった。
……中にジェクトを残して。

『シン』はそのまま何処かへ消え去った。



何が起こっているのかさっぱり分からない。
もしや、これが『シン』が復活する原因なのか?

何かが『シン』の中にいて、そいつが歴代の究極召喚の祈り子に取り憑いて新たな『シン』を作る。

これが本当なら人間の罪など無関係。
寺院やユウナレスカはこの事を知っていた…?


俺の体は震えていた。


それがブラスカとジェクトを無駄死にさせてしまった事から来る物か、知っていて真実を隠していた者たちへの怒りからなのかは分からない。
いや、両方だろう。


「…ユウナ……レスカっ……!!」


一番止められる立場であったにもかかわらず、止めずに更に真実を話さなかったユウナレスカ。
俺は堪忍袋の緒が……いや、堪忍袋ごと吹き飛んだ。
今すぐにでもユウナレスカの所へ行き『何故だ!』と、問い詰めたい所だが……

レインをあのままにしておくなど出来るものか。


俺はレインの元へ戻り、レインを旅行公司に預けた。
急いで手紙を書き、その手紙と昔から愛用している護身用の脇差と一緒に。


さあ、もう一度行こう。
最果ての地、『ザナルカンド』へ。


〜Side Out〜
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