独奏の堕天使
□★七歳〜八歳編★輝く森の中にて
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「う〜……魔力つきそう。」
超ぐったりしている私。
そりゃあ、今回は剣の出番は無く、魔法のみだったから仕方ない。
三人も疲れている様だ。
「アイツ攻撃ん時はかてぇ癖に何で此方が攻撃するときはやわらけーんだよ!!」
「斬った感触が気持ち悪い!」
ジェクトとアーロンは今は亡きスフィアマナージュに対しての愚痴を溢している。
「あはは、皆お疲れ様。」
ブラスカが寝床の支度を始めたので、私も準備し始める。
少ししてアーロンも手伝い始め、十分ほどで準備は終わった。
それから私とブラスカはご飯の準備に、アーロンは大太刀の手入れ、ジェクトは端の方で何か録っていた。
やっぱりお土産かな?
「ジェクト、アーロン、ご飯が出来たよ。」
準備が出来たところでブラスカが二人を呼ぶ。
タイミングが良かったようで、二人とも直ぐに来た。
それから話をしながら食事を済ませ、個人個人で疲れを癒そうと言ったところでジェクトが先程録っていたスフィアを泉の所に置いている。
ジェクトは置いた後「んじゃ、寝るわ!」と言って寝始めたので私はバレないようにジェクトが置いたスフィアの場所まで行き、中身を再生した。
『よぉ、お前がこれを見てるって――――』
何時も側で聞いているジェクトの声が流れる。
これは…遺言のような息子さんに向けてのメッセージだった。
帰れない。
それは私も確かに感じ始めていた。
ザナルカンドには帰れない。
ジェクトはもうブラスカと一緒に最後まで…………『シン』を倒すと決めている。
私も同じ。
『シン』を倒して、皆で楽しく穏やかな日々を過ごしたい。
「何をしている。」
ジェクトのスフィアの再生が終わった所で後ろから誰かが………アーロンが声をかけてきた。
私は咄嗟にスフィアを元の場所に戻し(落とし?)後ろを振り向く。
「特に何もしてないよ?」
「嘘つけ、ジェクトのスフィアを見ていただろ。」
「バレてましたか、」
「普通にばれている。」
そう言うとアーロンは私の隣に座る。
「…………」
「…………」
お互いに沈黙が続く。
「…………」
「…………(汗)」
何か気まずい。
話が無いんなら座らなくたって良いじゃん!
……なんて思っても言えません、なんとなく。
「家に帰れない……か、」
「ん?」
いきなりアーロンが話し出す。
「ジェクトは辛いだろうな。」
「そうだろうね。だって、奥さんと息子さん置いてきちゃったんでしょ?」
「そうらしい。」
「出来るんなら帰りたいのかなー…。」
「そうだろうな。……お前は帰りたく無いと言っていたな。」
「あれ?覚えてた??」
意外なことに旅を始めた頃の会話を覚えていた様で。
「あれはかなり衝撃的だったからな。」
「そう??」
「家に帰りたくないと言う7歳児は始めてみたぞ。」
「だよねー。」
逆に見たことあったらビックリするよ。
「…………レイン。」
「何?」
「……いや、何でもない。」
「何よー、勿体振らないで言いなさいよ♪」
「…………ジェクトと、出来るなら帰りたいか?」
意外な質問がアーロンから来た。
「―――帰りたいのかもね。でもさ……」
「ん?」
「四人で暮らしたいかも。」
「…………」
私の言葉にアーロンは少し表情を暗くする。
「出来るならさー『シン』ぶっ倒して、それで平和なザナルカンドに四人で行って、穏やかな毎日を過ごしたいって思う。
……そりゃ、無理だと思うよ。
『シン』倒したら帰る方法がもっと分からなくなるし、帰る方法が見つかったとしてもアーロンとブラスカが行けないかもしれないから。」
「…………前向きに考えろ。」
「え??」
「無理だと思うから出来ないんだ。前向きに考えれば答えが見つかるかもしれないだろ?」
……正直に言って意外。
アーロンからこんな言葉が聞けるなんて。
いつもは旅の事しか考えて無さそうなのにね。
「…じゃあさ!アーロンが連れてってよ、ザナルカンドに。」
「……は?いや、俺はザナルカンドに行く方法など―――」
「そんなの気にしないの、前向きに考えれば答えが見つかるかもしれないんでしょ?それなら一緒に考えてよ、四人でザナルカンドに行く方法。」
「………はぁ、少しは考えておく。」
「ありがと。んじゃ、約束の印として……」
そう言うと私は鞄から銀色に光る鍵を取り出した。
「これを預けときますっ!」
「……なんだこれは。」
「私の家の鍵。もし行けるんなら四人でしょ?なら誰が持っていてもダイジョブよー♪」
「仮にも家の鍵だろ、自分で持っておけ。」
「何よそれー、良いじゃん!持ってて、ね?」
私は家の鍵をアーロンに無理矢理渡す。
それを戸惑いつつも受け取るアーロン。
「……仕方ない奴だ、ほれ。」
「??」
アーロンが私の家の鍵をしまったかと思ったら私の家の鍵とは違う鍵を出した。
「持っておけ、場所なら分かるだろ?」
「これって……アーロンの家の?」
「安心しろ、スペアなら持っている。」
そう言って同じ鍵を取り出すアーロン。
スペアって普通、家に置いとくよね?
そんなことは気にせず無言で私は鍵を受け取る。
「無くすなよ?」
「無くさないよ!!」
「さて、もう寝るか。」
「だねっ!おやすみー。」
そうして、私達はいつもの定位置に行き、寝始めた。
この家の鍵がまさかあのような形で役に立つとは思いもしなかった。