独奏の堕天使

□★七歳〜八歳編★出会い
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「……疲れたなぁ。」

私は今、海の真ん中で浮かんでいる。そこで日課となっているブリッツの練習をするのだ。
息を吸って、潜る。暫くシュートの練習をしていて、ふと海の奥底を見てみると巨大な影があることに気付いた。

「……なに、あれ?」

そう呟いた瞬間、その影を中心に不自然な海流が流れた。何故か私を吸い込むかの様に。抵抗も出来ずに私はどんどん影に吸い込まれていった。

「いやぁぁぁぁ!!!」

叫びは虚しく響いた。







目を開けると知らない場所だった。
私は立ち上がり、空を見上げる。真っ黒で、星さえも見えない。本当に夜なのだろうか。

「ザナルカンド……じゃ無いよね。」

『ザナルカンド』とは、私の暮らしている街である。そこは沢山の光に満ち溢れていた。
…だが、ここはそうとは思えない。
ザナルカンドを近代的と言うならここはテレビによく映るような古風な感じがした。
……宗教でもあるのだろうか。
その時「おい。」と、背後から男性の声がした。
振り返るとそこには紅い着物のような服を着たお兄さんがいた。

「……私?」

「そうだ、夜にこんな所で何をしているんだ?それに子供が来る所じゃないぞ。」

お兄さんは何故か不機嫌そうに私に言う。

「……ブリッツの練習してた。そしたら、変な影に吸い込まれて、ここに……」

私は本当の事を言う。

「もしや、『シン』の仕業か?何処に住んでいたんだ?」

お兄さんはしゃがんでで聞いてくる。
『シン』って……何?

「ザナルカンドだよ。」

その言葉を聞いたお兄さんはとても驚いた表情をした。
何でだろう??

「……本当か?」

「うん、それがどうかしたの?」

私は聞き返してくるお兄さんに聞いた。

「それは――「どうかしたのかい?アーロン。」

「それは」と、何かを言おうとしたお兄さんの言葉を遮ってお兄さんの後ろから別の人物が現れた。
なんか……凄い服装だ。
言葉では表現出来そうにない。

「ブラスカ様!どうして此処に…」

お兄さん、もといアーロンは凄い服のお兄さん…ではなくブラスカに立ち上がって声をかける。

「彼とは話がついたからね、少し散歩だよ。その子は?」

ブラスカは私に話を振る。

「実は……」

アーロンはブラスカに何かを話す。
私には聞こえない。

「成る程、じゃあ彼と同じ様なものだね。」

ここまで言うとブラスカはしゃがんで私に話しかけてきた。
よくその服装でしゃがめるなと、感心する。

「君の名前は?」

「……レイン」

「レインか、私はブラスカこっちがアーロンだよ。」

ブラスカが自己紹介をする。

「レイン、君はザナルカンドから来たんだってね。」

「うん。」

私はブラスカの質問に頷きながら答える。

「君と同じ所から来たって言っている人が居るんだ、会うかい?」

ブラスカから衝撃的な発言が出てきた。
同じ所…ザナルカンドだよね?
どんな人かは分からないが、会って見なければ何も始まらない。
私は無言で頷き、彼らについて行った。






私はブラスカとアーロンに連れられてザナルカンドでは全く見ないであろう見た目の建物の中に入って行った。
二人の後ろをついて行くと上裸の男性が屈伸をしていた。
私はその顔に見覚えがあった。

「ジェクト?」

そう、彼はザナルカンドにて最高のブリッツボールプレイヤー、ジェクトだったのだ。
どんなに幼い子供だろうが、ブリッツに興味を示さない人だろうが、彼の名前を聞いたことのない人は『ザナルカンド』には一人も居ないだろう。

「ん、知り合いだったのか?」

アーロンが私に聞いてくる。

「ううん、私が一方的に知っているだけ。」

「そうか。」

ジェクトが此方にに気づいて近寄ってくる。

「おっ、アーロン。どうした?そんな子供連れてよ、お前のか?」

ニヤニヤと笑っている。
アーロンをからかっているのだろう。

「馴れ馴れしい、ブラスカ様!本当にこんな奴を旅に連れていくのですか!?」

アーロンは旅にジェクトを連れていくのに反対の様に見受けられる。
…その前に旅に出るんだ、アーロン達は。

「勿論、目的地はザナルカンドだからね。」

旅の目的地はザナルカンド!?私はその言葉に唖然とした。
でも、本当に私の住んでいるザナルカンドなのだろうかと、深く考える。
それに、ジェクトが同行すると言うことはジェクトはザナルカンドに帰りたいと言うこと。私は…帰りたいのかな?家に帰っても誰も居ないし、また同じ日が続くだけの様な気がする。変化のない、とても詰まらない日常。
そんなのに比べてこのままここに居たら、私はどうなるんだろう…
まだ知らぬ世界での生活を想像する。

「レイン?」

「…」

「レイン?」

「…ひゃい!?」

考え事をしていたらアーロンに呼ばれていたのに気付かず、焦って返事をした弾みで舌を噛んでしまった。

「大丈夫か?」

アーロンが心配してくれている。

「…あい。」

私は泣きそうになりながら答える。
どうやら考え事をしている間にブラスカが話を進めていた様で、ジェクトと何かを相談をしている。内容は聞き取れない。

「アーロンは、話に入らなくて良いの?」

私は会話に参加せずに居るアーロンに聞く。

「大丈夫だ。レインは…行くあてはあるのか?」

いきなり聞かれたので私は戸惑った。

「…無いと思う。それに、私はアーロン達が旅に出るって言っても、それがどう言う物かもさっぱりで…」

ここが何処かも分かっていないのに行くあてなんて分からないし、この場所で初めて知り合ったアーロンやブラスカが何故旅に出るのかさえもわからない。

「そうか、ジェクトと同じで何も知らないんだったな。俺達は――」
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