独奏の堕天使
□★七歳〜八歳編★事前準備
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「んっ、ふあぁ……」
牢の中で私は伸びをする。一応私の居る牢の前はジェクトの牢なのだが、人が動いている様子はない。改めてここは現実なんだと私は思った。やはり夢ではなかった。ほっとするような、悲しくなるような…不思議な感情がぐるぐると回って複雑である。
「やっと起きたな、レイン。」
「あ、アーロン。」
声が聞こえた方、牢の入り口を見るとアーロンが立っていた。
「もうジェクトも起きている、早くしないと何も出来ないまま出発だぞ?」
「嘘!?」
これでもいつも通りに起きたはずで、大人の朝は早いと実感する。身なりを軽く整えて私は牢を出てアーロンに着いていく。
昨日私が居た場所。グレートブリッチに、ジェクトとブラスカが居た。ジェクトは眠たそうにしているがブラスカはジェクトとは違って全く眠たそうに見えない。
「おはようございます。ごめんなさい、寝坊しちゃって。」
私は二人に頭を深く下げて謝る。
「別にいいよ、私達からしても早いからね。」
「でも、待たせちゃったし…」
「気にすることはねぇよ、俺もちとやっちまったからな。」
「起きない貴様が悪い。」
ジェクトは起こされたのか。
確かに早いから仕方ないと思うけど…私の中で天下無敵のジェクト様が崩れた気がする。
「そーかよ。んで、どうするんだ?ブラスカ。」
「取り敢えず私はレインと一緒に店を回るよ、アーロンはどうするんだ?」
「勿論、ブラスカ様についていきます。」
この後の予定を話すブラスカ、一緒に来る事になったアーロン。
ジェクトはどうするんだろう。
「そんじゃ、俺はユウナちゃん所でも行って来るか。」
そう思っていたらジェクトが口を開きどうするのかを言った。ユウナちゃんと言うのは昨日少し話に出ていたブラスカの娘だろう。
「そうか、雑に扱わないでくれよ?まだ七歳なんだから。」
「わーってるよ。じゃ、後でな。」
ジェクトは右手で手を軽く振りながら私達に背を向け建物の中に入っていった。
ブラスカの娘は七歳なのか。私と同じ…この事を言ったらブラスカは私を旅に連れていってくれないかもしれないと、自然に感じてしまった。黙っておこう、別に言うほどの事ではない。
「全く…ブラスカ様、本当に良いんですか!?あんな不真面目な奴が貴方の側になど…俺は納得出来ません!」
ジェクト、こんなにアーロンに嫌われていたのか。確かに自分勝手な感じはあるが、そう悪くないと私は思う。
「アーロン、君がジェクトに言った通り旅の事に関しての決定権は私にある。ジェクトはいざというときに私達を引っ張ってくれる……そんな気がするんだ。」
「……はい、すいません。」
そんな二人を低い位置から黙って眺める私。
「着いたよ、ここは色々売っているから使いやすい物を選ぶと良いよ。」
あの話の後、三人とも無言で歩き、着いたのが比較的大きいと思われる店。
入口から見ただけでも様々なものが売っているのがわかる。
ここで私が一番気になっていた事を聞く。
「……お金は?」
買って貰うのは少々申し訳ないと思い聞くと、その問いにはアーロンが答えた。
「大丈夫だ、ここの店主には貸しがある。」
なんか私と話す時だけ雰囲気変わっていると、今更ながら思う。まぁ、子供が大切そうな旅に同行するってだけで気に入らないのかもしれない。
……その前に、彼から何か黒いものが見えた気がしたが、気のせいだろうか。
「うーん…どれが合うのか分からないし、全部大きいよ。」
「無難に片手剣が良いんじゃないのかな?」
「大きさを見てみますと、レインには両手剣になりそうですが、やはりそのくらいが丁度良さそうですね。」
アーロンとブラスカは互いに剣を眺め話し合う。
身長100p程しか無いのは認めるけど、嫌味を言われている気がしてならない。
「うん、それなら大きくなっても片手剣として使い回しが出来るからね。」
「じゃあそうする!…比較的軽いやつってどれかな。」
「自分で気になるやつを持ってみれば良いだろ?」
私はアーロンのアドバイス通りに気になるやつから順番に持っていく。
その場で軽く振ってみたりして一番気に入ったのは赤色がベースの剣だった。
振っているときアーロンが何か言っていた気がするが聞こえなかったのでスルー。
その後も二人はアドバイスをしながら左手に付ける防具、動きやすい服を選んだりしてくれた。
服は別に良いと言ったのだが二人ともこれだけは着させなければ行けないなどと言ってローブ見たいなのを選ばされた。
結局私は全部買って貰ってしまったのであった。
「ブラスカ様、少しレインをお借りしても宜しいでしょうか?」
歩いている途中でアーロンがいきなり言った。
私を借りるってどういう事?
「うーん。少し待ってて貰えるかな、魔法の方を軽く教えておきたいから。」
な、なんだって…。
魔法かー、出来るかなぁ。
「分かりました、俺はジェクトの様子でも見てきます。」
「どうやらアーロン、君も同じ様な事を考えていたようだね。」
ブラスカが少々黒い笑みを浮かべたのを私は見逃さなかった。