怪盗クイーン

□千夜一夜を物語る夢は彼方へ彷徨う
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人は、財宝や金と言った、現実的なもので、手に入れると一生遊んで暮らせるものを手に入れてしまうと、全てを失う。そして死に至る。
この宝石も、幾多の人を失望させ、死に至らせたのだろうか。
今宵も人を、狂わせる凶器となるのだろうか……。


そんな台詞を言っているナレーション。渋い声が特徴の声優さんのようだ。
ソファーに座って。優雅にワインを飲んでいる。そして、たまたま付けたTVで、それが流れていた。釘付けになるようなフレーズだ。死の宝石、と言う事だろう。
「………私に相応しくは無いな。」
自分は不幸な人間では無い。とても幸運な人間だ!いつでもクイーンの心の中はポジティブな事しか無いようだ。
「けど、見て見たい。人々が欲しがり、手に入れ、失望させられた宝石、か………。」
ふふっと笑うクイーン。
「RD!調べて欲しい事があるんだ。」
【何でしょうか?】
「この、今TVに映っている宝石に付いて。急いでいないからゆっくりで良いよ。」
【了解しました。】
さて、と。クイーンはソファーから立ち上がり、TVを消して何処かへ行ってしまった。


その頃ジョーカーは、一人自室でベッドに座りながら本を読んでいた。
「………。」
本と言うより、雑誌だろう。薄い雑誌はあまり中身が無いのだが、その世界へ誘と言う不思議な効果が見られる。
「……古代エジプト、か。」
雑誌のタイトルは、『古代エジプト特集!これを読めばあなたもエジプトに行きたくなる!』。もうエジプトは良いのだが、何故だろう。読みたくなったのだ。
「………正直、あんな事件にはもう、絡みたくない。」
ピラミッドキャップの事件は、とても疲れた。あれ程疲れた事は無いだろう。だから、正直エジプトにはもう行きたくない。だが、何故か読みたくなっていた。
コンコン。部屋にノックの音が鳴り響いた。
「どうぞ。」
この飛行船でノックをしてくるのは、たった一人しかいない。
「やあジョーカー君。読書中悪いね。」
クイーン。彼ただ一人だ。
「悪いと思うなら、入って来ないで下さい。」
「おや冷たい。………まあ良い。ん?古代エジプト?」
ジョーカーの読んでいる雑誌を見て、ほーうと言っている。
「ええ。読みたくなったのでRDに取り寄せてもらいました。」
「………それはきっと、新しい仕事と関係があるからだよ。」
「仕事する気になったんですか?」
いつものように、尖った言い方をするジョーカー。何も返事が無いのだが、ジョーカーはそんなクイーンにはお構いなしのように、話を続けた。
「まさか、エジプトに行くとか言うんじゃないでしょうね?」
「………」
こくり、と頷くクイーン。それには溜め息が出るジョーカー。まさか、そう来るとは。
「で、どんな仕事ですか?」
「これさ!」
クイーンは嬉しそうに、ジョーカーにある資料を見せた。
「………死の財宝『アルバの宝石』?」
「ああ!とても綺麗な宝石さ!たった一つで、1億かな?」
その値段を聞いたジョーカーは、資料に載っている宝石をまじまじと見つめた。
確かに、宝石にしては大きい。5cm程だろうか。そう書いてあるのだが、実物は小さいのだろうか。青く輝く、と資料には書いてあるのだが、本当にそうなのだろうか。
【ちなみに、アルバとはラテン語で白、に由来します】
RDの声だ。ジョーカーは渡された資料をクイーンに返し、エジプトの雑誌を本棚にしまって。リビングに行くとクイーンに言った。クイーンもついて行く。






クイーンが獲物を定めた頃。
花菱仙太郎は一人、自分探しの旅に出ていた。
モロッコまで。
「………何で俺、また砂漠の所に来たんだろう。」
ピラミッドキャップ以来、来ていない砂漠地帯。来たくは無かったのだが、何故か来ていた。
「……あ、キャラバンだ。」
街から離れた砂漠で、此方に来るキャラバンと出会っていた。
「………どうしたんだ?」
寄って来たキャラバンの一人が、駱駝(らくだ)から降りて仙太郎の所へ来た。
「ちょっと旅をしていて………。」
慣れないアラビア語で答える仙太郎。すると駱駝に乗って行くか?と言われたので乗らせてもらった。

そのまま駱駝を操る彼の家へと行ってしまった。

「………お前、日本人だろ。」
駱駝を操っていた男の家に着いて。
一人暮らしなのか。家には誰も居ない。それに、家具も少ない。
椅子に座って。日本語でそう聞いて来た。
「え、あ、はい。」
「……何故日本語を、ってか。俺は2年程日本に居たんでね。それで、な。」
それだけでは無いと思うぐらい、この男は日本語がうまい。だが日本語が話せるのなら、会話は楽だ。
「っと。まだ自己紹介をしていなかったな。俺の名前はバルク・アミール・ニゲラ。年齢は20歳。」
「俺の名前は花菱仙太郎。なら俺の方が年上だな。24歳だ。」
お互いに名乗り合って。握手を交わして。
仙太郎は、ぶるぶると震えている携帯電話に気付かなかった。
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