怪盗クイーン

□絢爛豪華な王冠と首飾りは新たな出会い
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それは、誰もが手に入れたいと願う王冠。その輝きは、もう二度と手に入れる事の出来ない物だろう。
それは、一体誰が何のために作ったのか。20億もする首飾り。だがその輝きは、見た者を一度虜にしてしまう程の輝き。

一人の王子は、その王冠を大切にしていた。
一人の王女は、首飾りのせいで、滅びの道へと誘われた。

王冠は幸福を与え、首飾りは不幸を与える。
それを守る一人の男が、世界中の怪盗の中で一番美しい男と出会う。








夕方。クイーンは早めのお風呂を済ませ、優雅にワインをグラスに注いで、ソファーに腰を掛けた。そして今日の夕刊を見る。
「………。」
そこには、とても興味深い記事が存在した。
『ルイ16世が気に入っていた王冠と、マリー・アントワネットがジャンヌ・ラ・モットに騙されて裁判にまでなった首飾りが、10月フランスのヴェルサイユ宮殿で特別展示されます!是非フランスへ!』
「フランス、か………。」
フランスと言えば、ヴェルサイユ宮殿だ。鏡の廻廊は、とても綺麗で、クイーンも一度は行って見たいと思っている場所の一つだ。
「ヴェルサイユ宮殿、か………。」
ふと思い出すのは、マリー・アントワネットの事だ。彼女は、本当は心の優しい王女であったが、少しばかり身勝手すぎたのだ。
ワインを一気に飲み干す。
「RD、フランスへ向けてくれ。」
【良いですけど……、どうしたんですか?】
「仕事さ。ジョーカー君をここに呼んでくれ。」
【はい。彼は確か………。】
「トレーニングルームさ。」
【分かりました。】
クイーンはソファーから立ち上がり、自室へと向かった。






ジョーカーに説明をし、変装をして、フランスのヴェルサイユ宮殿辺りに来ていた。
「………今日は、普通の変装ですね。」
「そりゃ、当たり前だろう?何せ、ヴェルサイユ宮殿に入るんだよ?」
団体観光客とは離れて歩く二人。だが何故かクイーンは、ヴェルサイユ宮殿の中には入らず、庭園に来ていた。
「クイーン?」
「………綺麗な所だね。」
「そう、ですね………。」
しばし、その美しい噴水を見つめるクイーン。その二人の所に、一人の男が近付いていた。
「……………きっと、マリー・アントワネットも、此処が好きだったろうね。」
「そう、ですね……。」
その会話を聞いているような男は、ゆっくりとクイーン達の後ろを通り過ぎていた。
「………あれ、軍人さんかな?」
クイーンが自分たちの後ろを通過したのに気付いたので、ジョーカーにそう聞いた。
「軍人、と言うより、警備員じゃないですか?」
「まあ、そうだね。」
だが、警備員にしては、とても綺麗だった。後姿しか認識出来なかったが。金色の髪が、とても美しかった。
「………クイーン、僕は貴方の方が綺麗だと思います。」
「おや、それはありがとう。」
珍しくジョーカーが、そんな事を言った。クイーンはそれを素直に受け入れた。
「さて。そろそろ中に行こうか。」
「本当ですよ。フランスは日本と違って、開閉時間が決まって無いんですから。」
「はいはい。」
二人がヴェルサイユ宮殿の中に向かって行った。

「………アントワネット様……、アンドレ………。」

一人の男の呟きは、噴水の水によって掻き消された。


クイーンは、念願のヴェルサイユ宮殿の鏡の廻廊にやっと来られたので、とてもはしゃいでいた。
「いやー、実に綺麗だね!トルバドゥールにも、こんな豪華な廻廊が欲しいね。」
【……一体あの飛行船の何処に、作るんですか!】
「………RD、真に受けたら負けだよ。」
【……はぁー………。】
そんな、子供のようなクイーンに呆れる二人。
「……………ねえジョーカー君。ここで一つ、豆知識を教えてあげよう。」
「……別に要らないのですけど。何ですか?」
「世間で知られている、『パンが無ければお菓子を食べればいいのに。』と言う台詞があるだろう?」
「ええ。それって、マリー・アントワネットが言ったんですよね?」
「それが違うんだよ。大きな間違いさ。ルソーの自叙伝『告白』の中に登場する「さる高貴な王女」の言葉が出典となっているんだ。高貴な王女の正体は、ルイ16世の叔母ビクトワール王女だと言われているんだ。きっと、マリー・アントワネットが贅沢な生活をしていたから、民衆が間違えてその言葉を、彼女の発言だと認識してしまったのだろう。」
「……………人間って、環境に左右されやすいんですね。」
「うん、そうだね。」
【ちなみにジョーカー。今回のクイーンの話は、真実ですよ。】
「解っていたさ。」
暫らく、二人はその廻廊を見つめていた。17C、此処は貴族で溢れ返っていた事だろう。絢爛豪華なドレスやタキシードを着て。話をしたり、人を待ったり。少しばかり、羨ましいと思うクイーン。
「………あの、そこのお客様。」
後ろからの声。ジョーカーは慌てて振り返った。すると後ろに居たのは、先程庭園で見かけた金髪の美青年だ。
「そろそろ、閉館のお時間です。また明日お越しください。明日は、ルイ16世が気に入っていた王冠と、……………マリー・アントワネットがジャンヌ・ラ・モットに騙されて裁判にまでなった首飾りが特別公開されます。是非お越しください。開館時間は、朝の11時からです。」
「ありがとう。行かせてもらうよ。」
にこっと微笑むクイーン。そして警備員は他の観光客にも、同じようなセリフを言って回っていた。
「………ねえジョーカー君。彼、何処か不思議だったね。」
「そうですか?僕には、……とても綺麗な人だと思いました。」
「恋でもしたかい?」
「まさか。相手は男ですよ?」
「ははっ、冗談さ。」
クイーンは、ジョーカーを連れて、ヴェルサイユ宮殿を後にした。


その夜。
クイーンはトルバドゥールに戻って、作戦を考えていた。
「さて。確かあの王冠と首飾りは、あの廻廊で展示されるんだったかな?」
【はい。そうです。大体真ん中等辺に展示する、と書いてあります。】
「随分大ざっぱだね。………さて、どうしようか。」
う〜ん、と、ヴェルサイユ宮殿の見取り図を見ながら考えるクイーン。
「警備員に変装して、展示が終わったと同時に盗み出しますか?」
「まあ、それが妥当で私の手が汚れないね」
「………。」
その発言には呆れるジョーカー。深いため息を付いて、RDと話した。
「RD、宮殿の警備は、何人ほどだ?」
【そうですね。10人程ですね。】
「意外と少ないんだね。なら、二人ぐらい増えていても、大丈夫そうだね。」
「………何だが危険な感じがします。適当に二人、捕まえて僕らがその二人の代わりに警備をした方が、怪しまれません。」
「………そうするか。」
これで、大体の検討は付いた。警備員に変装して、一瞬の隙の間に盗み出す。そして華麗に消え去る。うん、完璧だ!クイーンは頭の中で描いた自分たちの光景に、惚れ惚れしていた。
【……大丈夫ですかね。】
「……………RD、僕、何か嫌な胸騒ぎがするんだ。」
【ジョーカーらしくないですね。】
「そう、だよね……。」
まさかジョーカーもRDも、その胸騒ぎが当たるとは、思ってもいない事だろう。




その頃、ヴェルサイユ宮殿では。
「明日は王冠と首飾りを展示する。警備を今まで以上に厳重にせよ!」
あの、クイーンとジョーカーに声を掛けた警備員が指揮を執っていた。
「けど大佐。いますかね、盗む奴なんて。」
「私は居ないと思っている。………無論、何事も無い、と願っている。……皆、警備に成功したら、飲みに行こう。私が奢ろう!」
それを聞いた警備員達は、喜んでいた。
「………。」
何処か表情の浮かない彼であった。
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