怪盗ジョーカー U

□同化
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それは、とても綺麗だった。
何て言い表したら良いか分からないけれど。
この夕陽と言うものは、とても綺麗で。僕の心を動かした。

こう言った事があるから、地球を滅ぼすと言う考えが、無くなるんだ。一瞬だけね。
僕の目標。それは、地球を滅ぼす事。勿論、人間誰一人残させない、死の星に僕は変えたいんだ。そして、僕一人だけになりたいんだ。

けれどそれを邪魔するのは、こう言った自然達だ。彼らは、僕のその手を止めるかのように、毎日輝いている。困ったもんだと、毎日思っていた。
僕は今、一本の大きな木の上に乗っている。と言うより、立っている。ここからの眺めは最高だからね。けれど、そんな時、僕の葛藤が生まれる。
「ジョーカー……」
君なら、滅ぼすなって言うんだろうね。けれど、ごめんね。僕はきっと君を殺してまで、その野望を叶えようとするだろう。
「ごめん」
僕は誰に向かって言ったのか分からないけれど、そう謝っていた。
「あれー?シモンー?何処だー?」
下から、ジョーカーの声が聞こえた。僕は慌てて降りた。
「呼んだかい?」
「うぉ!木の上に居たのか……。ああ、用があったから、来たんだろ?」
可愛いジョーカー。僕だけのジョーカー。あの日、あの時に君の首に噛み付いた僕は、君の虜になっていた。そんな事、君は知る由もないだろうけれどね。
「シモン。一晩、泊めてくれない?」
「?良いけど……」
こんな森の奥のお客さんなんて、彼しか居ない。だから部屋は割と綺麗だ。だから大丈夫なんだけど、なんでまた……。
「実はさ、ハチと喧嘩しちまって……。飛行船に戻させてくれねえんだ。一日、どっかで頭を冷やして来い、て言われちまってさ」
「………あぁ」
そう言う事か。そうだよね。あのハチ君が、僕の所にそう易々とジョーカーを差し出す訳ないよね。
「良いよ。けれど、寒いかもよ?」
「その辺は大丈夫!ちゃんと防寒して来てる!」
用意が良いと言うか、初めから僕の所に来るつもりだったんだね。流石と言うか、ため息が出そうだよ。けど、好きなんだよね、そんな君の事が。


ジョーカーを部屋に案内して。
僕は夕食の支度をしていた。
「なぁー、何食わせてくれんだ?」
「肉だよ」
「………まさか、人間の肉じゃねぇよな?」
「ははは、まさか。ちゃんと、動物の肉だよ、ほら」
牛の頭を見せた。そうしたらジョーカーは安堵のため息を付いていた。
「良かった。んじゃ、何かやる事あるか?」
「無いから、待ってなよ」
「おう、そんじゃあ待ってるー」
そう言ってジョーカーはキッチンから出て行った。
僕は慣れない包丁を使って料理をしていた。その時、手が滑って指を小さく切ってしまった。
「………痛み、か」
もう何も得る事がないのこ身体。辛いと言うか、虚しかった。指から出た血を舐めてみる。自分の味だ。紛れもない、シモン・アルカードの。
時々、悪夢を見る。僕が僕じゃないみたいな悪夢を。けれど、そんなの所詮夢だ。僕はここに居て、ここにこうして居る。誰が何と言おうと、僕はここに居るんだ。そうだとも。


慣れない手つきのまま、料理は何とか出来上がった。味見したけど、美味しいんじゃないのかな。人間の味覚は分からない。
その料理を、ダイニングに運んで。ジョーカーを呼んだ。
「美味そうじゃん」
「味に保証はないよ」
「ははっ……。まぁ、いただきます」
ぱくっと一口食べたジョーカー。言っとくけど、媚薬とか入ってないからね。
「美味いじゃんか!シモンに料理の才能があったのか……!なぁ、これからも作ってくれよ」
「えぇ?………まぁ、良いけれど」
どうせ作る相手は、君しか居ないだろうしね。
「………夕陽」
「ん?」
「夕陽ってさ、綺麗だよね」
「んー?おう、そうだな」
はっと、僕は我に戻った。何を言っているんだろうか。ジョーカーにそんな事を。
「夕陽、見てたんだよな」
「あっあぁ」
「シモンでも、見るもんなんだな」
「……そうだね」
そこで会話が途切れてしまったが、僕は何か話題を作らないとと、内心焦っていた。
「………シモンの瞳って、綺麗だよな」
「そうかい?」
「うん。夕陽みたいに真っ赤でさー」
その一言が、とても嬉しかった。
僕の瞳が、あの夕陽と同じだなんて。
「………ありがとう」
「ん、おう。これも美味いぜ」
がつがつと食べてくれるジョーカーを見て、自然と笑みが零れた。本当に、君は可愛い。
「はぁー、食った。ありがとな」
「気にしなくて良いよ。これぐらい」
ジョーカーは、洗い物はやると言い出したので、それは任せた。
僕は静かに読書に入った。


そして、洗い物が終わると、ジョーカーはお風呂に入りたいと言い出した。
「シャワーで良かったら出るけれど……」
「ああ、シャワーで良い」
そう言って、ジョーカーを風呂場へと案内した。前に来た時は、急いでたしね。


そして、ジョーカーがシャワーから上がると、時刻はもう、22時を過ぎていた。僕はそろそろ狩りの時間だ。
「………ジョーカー、もう寝たら?」
「うん?えー、まだ早いじゃん」
「良いから」
僕は彼を部屋へと強引に押し込み、おやすみと言った。


ごめんね。君に、こんな姿は見せたくないんだ。
人間を狩る瞬間とかを。
















END(あとがき)

中途半端な終わり方ですみません……。敢えてここで終わりたかったので。

ここまで読んで下さって、ありがとうございました。

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