怪盗ジョーカー U

□夏の浜辺で
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その日は、とても暑かった。最高温度が35℃以上も越え、ジョーカーは涼しい飛行船の中でアイスを頬張っていた。
「外、すっげぇ暑いんだな」
「そうっすね……」
「なぁ、ハチ。折角暑いんだし、海にでも行かないか?」
「プールじゃなくて、ですか?」
「敢えて海に行く事によって、人が少ないと感じる!」
「そうっすかね………」
ハチの反対を押し切り、ジョーカーは海に行く事を選んだ。
だが二人ではつまらないと、ジョーカーは手当たり次第電話した。

電話した相手。それは、ナイトメア、シャドウ、スペード、クイーン、シモンであった。


「………何で僕を誘ったの?」
「えっ、お前、海好きじゃ無かったっけ?」
「いつそんな事言ったよ……」
ヴァンパイアのシモン・アルカードは、呆れたため息を零していた。ヴァンパイアは鼻が利くから、海が嫌いだと言う事を何故気付かないのだろうか。仕方なく、黙っておくことにしたのだが、シモンは太陽に弱い訳ではないが、焼けたくないと言って、ずっとパラソルの中に居た。
「ジョーカー、呼んでくれてありがと♡たまの海は嬉しいわ」
クイーンはお気に入りの水着を着て、とても嬉しそうに言っていた。
「おう、喜んでもらえて、何よりだ」
「………そこのヴァンパイアは、不機嫌そうね」
「……お嬢ちゃん。噛まれたくなかったら、さっさとどっかに行って」
それを聞いたクイーンは、むすっとしてその場から離れた。
「………何か、悪かったな。来たくも無かったみたいだし……」
「………良いよ。君の頼みだ」
そんなパラソルの下で休んでいると、こちらにジョーカーと良く似た人物が近付いて来た。
「おい、ジョーカー。発案者のお前がこっちに来なくてどうする。荷物の見張りはコイツに任せて、お前も泳ごうぜ」
「あっあぁ……」
シモンは座りだし、本を出していた。任せて大丈夫だろうか。そんな疑問が葛藤していた。


スペードもシャドウもナイトメアも、今日ぐらいは仲良く遊んでいた。たまにはこんな日も良いな。とジョーカーはその様子を見て思っていた。
ちらっとシモンの方を見て見ると、彼は相変わらず読書に夢中であった。


「ジョーカー、海って良いもんだね」
浮き輪に浮かぶナイトメアがそう言う。彼は泳げない訳ではないのだが、そうしてゆっくり流されていたいらしい。更に、今日のナイトメアはすっぴんであった。流石に海に来るのにあの化粧は落ちやすいので。最初皆に出会った時、誰!?と言われてしまった人物である。
「ああ、だよな」
「今回、人も少ないし。まさに海日和だね〜」
とても呑気なナイトメアにジョーカーは安心していた。これなら、変な争い事も起きないだろう。
「ジョーカー。ナイトメアを連れて、こっち来てビーチボールで遊ぼう」
スペードがそう言って来たので、ナイトメアが乗る浮き輪を引っ張った。その拍子に海に落ちるナイトメア。
「酷いじゃないか!」
「仕方ねぇじゃん!」
はははっと笑い合う二人。

シモンはその光景を、羨ましそうに見つめていた。


ビーチボールで遊んでいると、ジョーカーは誤ってスペードの顔面に当ててしまい、怒ったスペードは仕返しに出ていた。シャドウはそれにとても笑っていた。
ナイトメアは慣れないビーチボールに苦戦していた。そこをクイーンが教えていた。

全ての光景が、とても羨ましく見えていたシモン。
何故、僕だけ此処に居るんだろう。
何故、僕は………みんなと違うんだろう。
少し表情が暗くなった時、突然隣に誰かが座った。ハチだった。
「ハチ君……」
「良いんすか?ジョーカーさん、盗られちゃったっすよ?」
「………良いよ。どの道僕は、太陽が嫌いだ」
「ヴァンパイアって大変すね」
「………」
あれだけ自分の事を嫌っていたハチが、今ではこんなに近くにいる。これは進歩と呼んでも良いのだろうか。シモンは意を決して聞いてみた。
「………君は、僕の事を許してくれたのかい?」
「うーん……。全部って訳じゃないっすけど。今の所は」
にこーっと笑うその笑みには、何処か影を見受けられた。
「そう、か。………ならもっと信用して貰うように、頑張るよ」
はははっと笑うシモン。ハチも一緒になって笑っていた。この少年に自分の事を認めてもらう事は、まだ時間が掛かると。分かっていたがまさかこんなに時間が掛かるとは、思っても居なかった。
「………僕さ、ジョーカーが笑ってればそれで良いと思ってるんだ。彼には笑顔が似合う」
「シモンさん……」
「………僕の事は良いから、ハチ君も海に行っておいで?」
「……………はいっす」
こうして、ハチも海へと向かった。シモンは手を振り、その背中を見送った。
「………」
あんな感情を表に出しそうになった自分が恥ずかしい。そう思っていた。



そして夕方になって。
ジョーカー達は引き上げる事にした。
「今日はありがとー!」
「久々に面白かったよ」
クイーンとスペードはそう言ってくれた。
「僕も、息抜きが出来たよ。ありがとう、ジョーカー」
「けっ。人数が多かったけどな」
ナイトメアとシャドウはそう言っていた。
シモンは、何も言わなかった。
その事に、ジョーカーはとても気にかかっていた。


そして、それぞれ指定された場所へ下ろし終わった後、ジョーカーはハチに相談していた。
「なぁ、ハチ。シモン。どうだった?」
「前よりかは、良い人になってたっすよ。あ、人じゃないっすね」
「………そうか」
それ以外感じられなかったのなら、良いのだが。とジョーカーはふと思っていた。
今回のこの小休暇。シモンの瞳には、一体どう映ったのか。その事が気掛かりなジョーカーであった。














END

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