怪盗ジョーカー U

□恋の鎮魂歌(レクイエム)
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今夜は、とても過ごしやすい夜だ。何たって誰にも邪魔されずに、パイプオルガンの音色を聴けるからね。僕は聴くのも弾くのも好きさ。色々な曲を好きなだけ弾ける今夜は、とても特別だ。何よりこのパイプオルガン、とても古いからね。まぁ、かと言って国宝とかになってる訳じゃないけど。
こんな日に、ジョーカーでも来たらな……。何て、ささやかな願い。

「………こんな夜中に、物好きな野郎だな」
うん?ジョーカーの声?まさかと思い、一度弾くのを止めて、後ろを振り返って見た。するとそこにはジョーカーが立っていた。
「ジョーカー!あぁ、どうしたんだい?」
「………パイプオルガンの音色が聞こえたから、ちょっと気になったんだよ。こんな真夜中に誰が弾いてんだろって」
あぁ、なるほど。そんな時間だったのか。真夜中……2時ぐらいかな。気にもしていなかったよ。ただ、夜が来たからと僕は思っていた。
「それで?ただ、覗きに来ただけかい?」
「そりゃあ……。お宝盗み終わった後だし」
「ほう?」
またイタリアで勝手に盗まれちゃったのか。本当は僕のお宝なのに。まぁ、可愛い君の為なら良いか。僕は一人頷いていた。
「………何頷いてるんだよ」
「いや、なに君が僕の陣地のお宝を盗んでいた事に、少しね」
「うっ……」
「けど、許すよ。君だもの」
にこっと僕は笑った。
「………ナイトメアってさ、片方化粧?が濃いから表情が分かんねぇよな」
「なっ失礼な。これでも薄いよ」
なんて、そんな呑気な会話をしている場合じゃないか。そろそろ出ないとね。誰かが来てしまう。
「僕の家に来るかい?折角だし」
「………お前の、家?」
「ああ。と、言っても別荘と言うか、もう一個の家だけどね」
本当の家に帰ったら、また文句を言われてしまう。帰れる訳がない。
「……お、おう。行ってやるよ」
相変わらず上から目線だね。そんな所も好きだけど。僕はジョーカーを、今アジトとしている家に招き入れる事にした。




そして、教会から出て、僕の現在のアジトへと連れて来た。森の中にひっそりとたたずむ家へと。
「………これで、別荘?お城じゃん」
「……父さんが煩かったんだよ」
「え?」
「さぁ、入って?」
詳しい事は、聞かれたくない。だから僕は笑顔で返した。そしてジョーカーを僕のアジトへと招き入れた。
「………随分、綺麗だな」
「そりゃあ。汚いのは嫌だからね」
「どっかのヴァンパイアに、その事を教えてやりてぇよ……」
ジョーカーが何かぼそっと言ったけれど、聞き取れなかった。何て言ったか気になるけど、僕はこのアジトを案内したくてたまらなかった。だから早速行った。
順番に説明して行って。ジョーカーは全部ふーん、と言っていた。
そして、僕のお気に入りの部屋へと案内した。
「ここが、僕の大好きな部屋さ」
「………え、お前って、絵とか描くんだ」
「そりゃ勿論。あのビリジアンから、評価も貰っているさ。素晴らしいってね」
「へぇ〜……」
予想外って顔だね。まぁ、誰にも言ってないからね。言うつもりもなかったし。
「……にしても、独創的だな」
「そうかい?まぁ、そこに飾ってあると言うか、今描いてるやつはね。これとか……」
僕は布で隠された絵を彼に見せた。
「うぉ、すげえ!」
「だろ?これは力作なんだ」
湖のほとりにたたずむ一匹のユニコーンを描いた絵画だ。僕もこれに関してはとても誇っていて、誰にも譲りたくない一枚だ。時間が物凄く掛かったしね。
「………売りゃあ良いのに」
「勿体ない。観賞用として置いておくのが一番だよ」
折角ここまで来たんだしね。それに売るなんて、怪盗らしくない。宝は秘めておかないと。そんな事をジョーカーに言ったら、確かにと言ってくれた。
「怪盗なら、盗まないとな」
「だろう?」
はははっと、そこには笑いが響いた。久々に、心の底から笑った気がする。何でだろう。今まで、笑うと言う事を忘れていた気がする。
「………ジョーカー。良かったら、音楽室に来ないかい?今度は、ピアノの演奏を聴いてもらいたい」
「ん、いーぜ」
ジョーカーを音楽室に連れ出して。僕は今度はピアノを弾き始めた。
少し哀しい曲を弾きたかったから、彼に聞いて欲しかった。

ジョーカーにだけ、素顔で笑える。素直に、自分になれる。そう思うととても胸が苦しくなる。彼にしか、僕は心を開けていない。それがまた、虚しかった。
「………」
無言で弾き続ける。ジョーカーは黙って聞いてくれているけれど、きっと本心では、何故こんな暗い曲を弾くんだろうとか、思っている事だろう。ごめんね。僕、明るくはなれないんだ。けど、君が居てくれたら、僕はずっと笑顔で居られると思うんだ。けど、君は僕の腕の中に居る事を拒むだろう。だから、その事は言わないでおくよ。

大体弾き終わったら、ジョーカーは拍手をくれた。
「上手かったぜ。流石ナイトメア」
「ありがとう」
君は本当に優しいね。それから僕達はお茶をして。他愛の無い会話を交わした。
そして、それから2時間ぐらいが経過した時、ジョーカーは帰ると言い出したので、玄関まで送る事にした。外に仲間が迎えに来てるらしいからね。
「今日は、ありがとな。楽しかったぜ」
「こちらこそ、ありがとう」
そこで僕とジョーカーはさよならをした。このさよならが永遠じゃないと言っても、とても虚しかった。本当なら泊まって行って欲しかったけど。そんな我が儘は君には言えない。
今度は僕がそっちに行くよ。そうしたら、また話そう。手土産を持って行くからさ。












END

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