怪盗ジョーカー U

□ドラキュラ城と命の聖杯
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そいつは、唐突に現れた。と、言うより、何処にいたのだろう。とにかく、僕はそいつと出会ってしまった。
ヴラド三世と言う、その男に。変な名前だと思ったが、昔の人物で。だから仕方がないんだけど。そいつは、ヴァンパイアも元は吸血鬼だろうとか言って来て、僕に手を差し伸べて来た。退屈していた僕は、こいつの話に乗ってやろうと考えた。僕の目的とは大きく違うけれど。
僕の目的。それは地球を終わらせる事。こんな世界に未練も何もない。だから、早く終わらせたかった。だからこの茶番に付き合ったら、壊してやろうと思っていた。

けど、それは出来なくなった。

城に、ジョーカーが近付いていたから。あの飛行船が誰のものかなんて、僕には直ぐに分かった。けどジョーカーと仲間だと知れたら、こいつに何されるか分からない。だから僕は、知らないふりをして、こいつの傍に居た。けどこいつと一緒に居たら、確実にジョーカーと出会ってしまう。そうしたら、直ぐにばれるだろう。そうしたらこいつは、ジョーカーを仲間にとか言い出しそうだ。そんな事はさせない。ジョーカーは、僕のものだ。僕だけに仕えれば良い。他の奴の言う事なんか、聞かせてたまるものか。



「フフフ…。よく来たね、ジョーカー」
「っシモン……」
ジョーカーは薄々気付いていたのか。僕が此処に居る事に。その声は、悲しそうだった。
「あんた達、知り合い?」
「ま、まぁ……」
知り合いと言うか、戦った仲と言うか。とにかく、顔見知りと言う事に、代わりは無いか。
「ほう。シモンの知り合いか。それは知らなかったな。ねぇ?シモン」
「っ……」
何も言いたくない。止めてくれ。僕はその場でぎゅっと瞳を閉じていた。けど、そんな事はずっと出来ない。何故なら、スペードとダーク・アイが吸血鬼に変えられてしまっているから。勿論こいつはジョーカーも吸血鬼にしたいだろう。だから、隙を待っている。何とかしなきゃ。
と、思っていたら、スペードとダーク・アイがジョーカーに襲い掛かっていた。避けたかと安心していたら、クイーンとか言う女も吸血鬼に変えられてて。どうしようとおどおどしていたら、ハチ君まで噛まれていて……。僕はどうしたら良いか、分からなくなっていた。
「シモン!自分の立場が分からないんなら、俺と一緒に来い!」
ジョーカーにそう言われたので、僕ははっとし、慌ててジョーカーに付いて行った。
「シモンめ……。裏切ったか」


そして、ジョーカーと一緒に飛行船まで逃げて。そこで少女に言われた。
「あなたも、吸血鬼なの?」
「………いや、僕は違う。僕はヴァンパイア。……あいつらよりも、進化を遂げている生き物さ。いや、生きてないから生き物じゃないか……」
下を向いて。なるべくジョーカーと目を合わせないようにしていた。
「………シモン。お前、暫く連絡が取れないと思ったら、そう言う事か」
きっとジョーカー、睨んでるね。雰囲気で察する事が出来るぐらい、ここの空気は、重い。まぁ、分かっていたさ。こうなる事ぐらい。僕が口を開こうとした時だった。
「やはりお前達は仲間だったのか」
何処からともなく現れた蝙蝠。ああ、聖杯に隠れてたのか。煩い蝙蝠だな。今はそれどころじゃないのに。僕はため息を零していた。
ウラド蝙蝠は船内を飛び回って。あの女の子にべじっと虫の如く叩かれると、太陽の事を告げたが、それはお前だけだろう。僕には、通用しない。けどそんな事もあいつは知らない。

僕の事を何も知らないくせに、家族とか言わないでくれ。

そして、ヴラドはジョーカーの飛行船にまでやって来た。
「シモン!まだこちら側に戻る気があるのなら、今までの行為は見逃してあげる!」
誰がお前なんかに従うか。僕は首を振った。
「ふざけるな。僕の事を、何も知らないくせに」
ぐっと拳を握って。僕はアイツを睨んだ。
「残念だよ。君を僕のしもべにしなきゃいけないなんて……」
そう言って、ヴラドは僕に噛み付いて来ようとした。ジョーカーにはスペード達が。どうしたら良いんだろう。太陽がない限り、僕は無力だ。とにかく逃げているが、何も出来ない。そんな自分が、とても悔しかった。
そんな時、隙を狙ってか、あの女の子を捕まえたヴラド。僕にはどうだって良かったが、ジョーカーには効果があったようだ。ジョーカーは聖杯を返すから彼女を解放しろと言っている。馬鹿か?吸血鬼がそんな交換条件に乗る訳ないだろう。ジョーカーはヴラドの要求通り、トランプや銃を捨てた。だがそれが命取りだった。ヴラドは蝙蝠で銃を撃ち、ジョーカーの足を動けないようにしていた。
「っジョーカー!!」
「おっと、シモン。お前は動くんじゃない」
「くっ……」
動いたら、噛まれてしまう。僕はどうしたら良いんだ、ジョーカー。僕がジョーカーを見つめた時、彼は、笑っていた。安心しろって言ってるかのような顔だった。
「わたしと血でつながる家族になるのだ。永遠に…」
「悪いけど、くさい口近づけるなよ、おっさん!!」
僕はぽかーんとしてしまった。まさか、そんな台詞が出て来るなんて。つい、笑ってしまった。
「こら、シモン!笑うな!」
「………やっぱり、最高だよ、ジョーカー。僕が一度ヴァンパイアに変えただけあるね」
「なにっ!?」
それを聞いたヴラドは驚いていた。
「くそっ、死ねジョーカー!!」
だがその時だ。聖杯の水があふれて来ていた。あぁ、太陽が……。
時差とか、すっかり忘れてたよ。地球って不思議だね。僕はジョーカーがヴラドにそう説明している間に、考えていた。そして仲間の彼らには日焼け止めクリームを塗ってって、ちょっと古典的と言うかすごいね。よくもまあ、あんな短時間に塗れたもんだよ。
「シモン、お前も灰になるぞ!」
「一人で勝手になってなよ。僕は………そんなもんじゃ死なない」
太陽を浴びても平気な僕を見て、ヴラドは船内に隠れようとした。けれどそれを防いだのは爆発音だった。ったく、ジョーカーめ。まさかこの船全体に爆弾を仕掛けてるなんて。やっぱり君は凄いよ。
逃げも隠れも出来ないヴラドは、灰になって消えた。もう蘇る事のないように、海の塵となった。最後に彼は、朝日を見て美しいと言っていた。僕の瞳にはそう映った事がないので、彼が一瞬羨ましいと思ってしまった。
「やったな、シモン」
海に浮かびながら、ジョーカーはそう言っていた。
「うん………」
「……お前だって、あっち側は嫌だったんだろ?」
「そりゃあ……!……僕の事を何も知らない連中と一緒に居ても、楽しくもないし」
君と居る方が楽しいよ。そう言い掛けたが、言えなかった。
皆元に戻って。僕たちは岸まで泳いだ。そこにはあの少女の家族が居て。皆元通りになったとか。あーあ。これで僕の計画はまた振り出しか。けど、それも良いか。何たってジョーカーの大切なものが分かったんだし。
「君の家族、良いね」
「シモン?」
「………その内、そこに僕も入れてくれ」
僕はそれだけ言うと、その場から逃げるように走り出した。
今の僕に、家族とか、駄目なんだ。一人じゃなきゃいけない。駄目だ。人間に愛情を抱くとか。だから僕は逃げた。
「何だ?アイツ……」

ごめんよ、ジョーカー。僕は、君を悲しませる事しか出来ないのかもしれない。
何たって僕がやろうとしている事は、地球の掃除何だからさ。

ごめん、ジョーカー。













END(あとがき)



無界様、リクエストありがとうございました。
この様な感じの内容でも大丈夫でしたでしょうか……?
パラレルと言う事だったので、復活していたシモンが出会ってしまった、最悪の人物的な内容で書かせて頂きました。

ここまで読んで下さって、ありがとうございました。

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