怪盗ジョーカー U

□寒さ
1ページ/1ページ


寒いと言う感覚は、僕にはない。ただその中で息をはぁ、と吐けば白くはなるが、それが寒くて出ているなど、知りもしなかった。

人間と違う存在。体の作りがまるで違うせいで、僕は軽蔑されて生きて来た。まぁ、ヴァンパイアだから仕方ないんだけどね。

この世界に、ヴァンパイアは僕しか居ない。と思っているけれど、本当は世界の何処かでひっそりと暮らしているのかもしれない。僕以外に、一族が生き残っていると言う話なんて、聞いた事無いけれどね。……唯一の存在。きっとこの事を、物好きな研究者が知ったら、僕を捕まえて色々調べるんだろうね。


僕は今、街中に居る。この季節……この街は雪と言う物が沢山降り、街全体を白色へと変える。その光景は、世界で一番の綺麗さらしい。僕は何とも思わないが。だからか、寒い寒いと言いながら、沢山の人間が此処に居た。あぁ、全員の血を飲み干してやりたい……。だがそんな事をすれば、僕はまた追われる身になってしまう。もう人間に追われる事には飽きたので、控えるようにしないとね。僕がふと、真正面を見た時、一人の男と目が合った。
「……ジョーカー」
つい、名前を呼んでしまった。するとジョーカーはこちらに来た。
「シモンじゃん!どうしてこんな寒い中に居んだ?」
「………僕は……」
「まぁ、良いや。寒いからさ、どっか店の中に入ろうぜ?」
「……あぁ」
仕方ないから、ついて行ってやる事にした。その時だ、ジョーカーに手を握られた。僕は反射的に離してしまった。
「っ……。す、すまない」
「あ、いや……」
「行こうか」
「お、おう……(すっげぇ手が冷たかったけど……。ヴァンパイアって……)」
何故離してしまったのか。反射的にとは言え、ジョーカーに不快な気持ちを与えてしまった。僕が唯一人間の中で認めた存在で、好意を抱いている存在だと言うのに……。

ジョーカーと共に入った店は、人間がまた沢山居た。スイーツ専門のカフェとか書いてあったな。だからか、甘い匂いがした。
席に座ると、ジョーカーが僕をじっと見つめて来た。
「……シモンの手があんなに冷たいとは、思わなかった」
「まぁ、人間じゃ無いしね」
「けどよ、血を飲んでるんだろ?なら……」
「……知らないよ、こんな体の構造なんて」
「あ、……そう、だよな……。悪い……」
はっと、僕はジョーカーの事を見つめた。また、やってしまった。またジョーカーを、悲しませてしまった。どうしてこう僕は、誰かを悲しませるような事しか出来ないんだろう。僕が俯いていると、ジョーカーは僕の手を握った。
「……夏にシモンの手を握ったら、きっと暑さとかどっか行くんだろうなー」
「……ジョーカー、ごめん」
「謝んなって。悪いのは、俺の方だしさ。……俺さ、お前がヴァンパイアでも、仲間だからな」
「………」
何で君はそんなに優しいんだ。僕は、君を一度ヴァンパイアに変え、君と君の仲間の命を狙ったんだぞ。君に恨まれてもおかしくないと言うのに。何故なんだ。
ジョーカーは僕の手から離れると、運ばれて来た温かい物を飲んでいた。
もし僕が人間だったら、君と一緒に死ぬ事を望むよ。だが今のこの……死なない体では、その願いすら叶わない。地球の終わりまで僕は、生き続けなければならない。生き地獄とはまさにこの事だろうね。
「……ジョーカー。もし世界の終わりが明日だったら、君は何をする?」
「うん?………そうだなー。大好きなもんたらふく食って、大好きなみんなと一緒にゲームをする、かな」
「………そんな事で良いのか?死ぬんだぞ?」
「ああ。……だってさぁ、特別な事をしようとか、考えた事ないしな。毎日が特別なんだから、それ以上の事をしてもさ、何かな。……それに、みんなと一緒ならさ、怖く無いじゃん」
「ジョーカー……」
やはり君は、良い人間だよ。僕が出会った中で一番マシな人間だ。どの人間も皆、欲望の渦に居るからね。
尚更僕は君の事を、一族として迎え入れたい。君をまたヴァンパイアにし、今度は一緒に……人間を狩り、ヴァンパイアだけの世界を作り上げて……と思ったが、君はそう言った事を嫌うね。どんな時も、楽しく過ごそうと考える君からしたら、何もかもない世界何て、退屈なだけだろう。
「……まぁ、そんなの来て欲しくないけどさ。……いつか、来るんだろ?」
「そりゃあ……」
「だったらそれまでに、世界中のお宝を盗んででやらないとな!」
「随分上からだね」
「まぁな」
へへっと笑うジョーカーを見て、僕も釣られて微笑んでしまった。そこで我に返ったが……ジョーカーと居ると不思議と気持ちが安らぐ……と言うのだろうか。とにかく、落ち着くのだ。不思議だね、君は。

ジョーカーが食べたかった物も食べ終わり、帰ろうかと僕が言うと、ジョーカーはハチを待っていると言って来た。
「あぁそうか、君の帰るべき場所は、飛行船か」
「おう。シモンは……」
「……僕の事なら心配しなくて良いよ。この街から少し離れた森の中に、家があるからさ」
「そう言えばそうだったな」
ハチ君が来るのを待ってあげようかと思ったが、僕はあの子に嫌われている。と言うより、今でも警戒されているんだ。まぁ、あんだけやったしね。流石は人間。疑い深い。
「行くのか?」
「ああ。……雪かきをしないと、家に入れなくなる」
「あー……。大変な所に住んでるんだな」
「仕方ないさ。……人間と一緒には暮らせない」
僕はそれだけ言うと、店から出た。相変わらず雪は降り続いていて。街を冷たく包み込んでいた。僕はそっと舞う雪を、手の平で受け止めてみた。それは溶ける事無く、僕の手の平の中にいた。きっとこれが人間なら溶けているんだろうね。雪さえ僕の事を敵視すると言うのか……。僕は雪を払い、森の方へと歩き出した。

いつかこの世の終わりが来た時に、ジョーカー、君の事をヴァンパイアにするよ。それなら文句はないだろ?みんな死ぬんだからさ。そして死んだ後どうなっているか分からないけど僕は、ずっと君と一緒に居るよ。

僕は君の主となる訳なんだからね。












END(あとがき)


あまりシリアスではないかもしれませんね。とにかく人間とヴァンパイアの違いに悩むシモンさんを書きたかったのです。
ここまで読んで下さって、ありがとうございました。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ