怪盗ジョーカー

□背徳の記憶は神からの裁き
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人は、目に見えない存在を信じない。目の前にある“物体”しか信じない。
神、などと言われ、どの神の事を、一番最初に思い浮かべるだろうか。
天使、と言われても、一体、どの天使を思い浮かべる事だろう。
天使が神に逆らう事。それは赦されない行為。だが、一人の天使は、反逆罪を犯してしまった………。







赤い月の夜。
シモン・アルカードは、一人自分の屋敷の屋根の上に乗り、その月を眺めていた。
「………不吉だ」
屋根に上る前、室内でタロットカードで占いをしてみたら、死神のカードで、しかも逆さまが出てしまった。
『今宵不思議な出会いが、貴方の人生を大きく変えるでしょう。ですがそれが不幸か幸か。それは取り方の問題です。』
それが当たらなければ良いが……。そう思っていた。
突風が吹き荒れる。彼の、金色の髪が風によって靡いた時、突然空から人が、物凄いスピードで降って来た。それにシモンは気付き、慌てて自身の翼を出し、その人物を助けに空へと飛んだ。
その人物をキャッチし、静かに地上へと降り立った。そして、取り敢えずと思い、一旦屋敷の中へと入って行った。



カナロアにこの事を知らせようとしたが、彼の姿が見当たらなかった。仕方がないので、その空から降って来た人物を、ソファーに寝かせた。
「……綺麗な髪だな……」
シモンは、その人物の、まるで自然に沸き立つ川のような、透き通った水色の髪にそっと触れた。一体、コイツは何者なんだ?あれか、ラ●タに出て来る●ータのような存在か?そんなふざけた事を、真剣に考えていた。
「おい、シャワー、勝手に使わせてもらったぜ………」
カナロアは、お風呂場の方から出て来ていた。何だ、お風呂に入っていたのか。シモンは、ふぅーと胸を撫で下ろした。
「………?どうした?」
「あ、空から人?が降って来て……」
それを聞いたカナロアは、ふとシモンが指差す方向に向かい、そちらを見た。すると、見た事の無い服装を来た男か女か分からない人物が、そこに寝ていたので、驚いていた。
「………人間か?」
「さあ………。とにかくこの人が起きるのを、待った方が良さそうだ」
シモンは、その間にと言って、お風呂場に向かった。カナロアは何も出来ないので、髪を乾かそうと思い、ドライヤーがある方へと向かった。







二人が色々している中、その空から降って来た人物は、目を覚ましていた。
「………此処は?」
起き上がり、辺りをキョロキョロと見回した。だが、全く身に覚えのない景色。
「……俺、一体………」
自分自身に問答していた時だった。
「あれ、目が覚めた?」
金髪の、赤い瞳をした少年が自分に近付いて来たので、警戒態勢を取る。
「そんなに警戒しないで。僕は、空から降って来た……貴方を助けただけ」
「空、から……?………」
まさか、とシモンは感じ取った。
「………俺、誰なんだろう……」
ほら来た。呆れるシモン。そうだろうと思っていたのだ。そりゃ、誰だって空から降ってくれば、記憶は飛ぶだろう。
「……記憶喪失か。また面倒な………」
「すまん………」
「まあ、良いよ。それで?君は人間なの?」
シモンが今一番知りたがっている事は、それであった。自分は人間ではない。あのカナロアも人間ではない。つまり自分の周りに来る人物は、皆人間ではない。この人物も人間ではないだろう。心の何処かで、そう感じていた。
「………分からねえ」
「そっか………」
なら、とシモンは一旦彼から離れた。
「まず名前………。名前は、憶えて無いもんね?」
「あっあぁ………」
シモンは、この部屋の本棚を調べていた。何か引っかかるような事があったのだろうか。
「……あった!」
彼は真剣な眼差しで、その分厚い本を捲っていた。
「………君のその水色の長髪に紫の瞳。この天使と同じ何だよね」
そう言いながら、その本を彼に見せた。
「……そう、なのか?」
「うん。名前は、こいつから借りよう。えっと………『アラストール』」
その名前を聞いた瞬間、突然彼は、怒ったような表情と共に、紫だった瞳が、赤く変色していた。
「……(まさか、ね………)」
シモンは、彼にその名を与えた。
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