怪盗ジョーカー

□遠くへ飛び立とう
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青い空に、白い雲。太陽は真上にある。
鳥は優雅に青い空を飛んでいる。リスは、木の枝で走り回っている。
「平和だね・・・」
「ああ・・・・」
ジョーカーとスペードは、丘の上の公園のベンチに座っていた。勿論、一般的な高校生に変装して。
この時間帯は、ベンチの所に木の影が太陽に照らされ現れる。ちょうど眩しくない場所。蝉が五月蠅く鳴いてはいるが、彼らは一週間しか生きれない。だから、彼らが一生懸命鳴いている蝉を追い払う事など出来ない。ほっとこう。
「何か、今日だけ・・・・心が安らぐ」
「それは、僕が隣にいるからかな?」
「・・・・・・そうかもな」
いつもより素直になるジョーカー。スペードは、フェンスから見える街を、ベンチに座りながら眺めていた。
「人間って、こう見るとちっぽけだよね」
「スペード?」
「世界は広い。だから、僕らがこうしてここにいることは、奇跡なんだ。そして・・・・ここの二人しか知らない世界がある。物語がある」
「・・・・・」
いつもふざけてるジョーカーも、スペードの真面目な発言には、言葉を失った。
いや、言葉が出てこないのだ。自分がここにいて、世界を飛び交う怪盗となって。確かに、広い世界の中でも、自分だけの物語を描いている。たとえ、世界の人々が自分の存在を知らなくても、スペードやハチと言った仲間は、知っている。
「俺だけの物語、か・・・・」
「あっ、君には難しい話だったかな?」
「全然難しくねえよ(笑)・・・・・なあスペード」
「ん?」
「・・・・・お前さ、怪盗になって、幸せってあったか?」
「勿論」
即答で返事が返ってきたことに、腰を抜かすジョーカー。
「君と言う人に会えた事さ」
「っぅ・・・」
照れて黙るジョーカー。よくもまあ、白昼堂々とそんな台詞が言えるものだ。まあ、そこがスペードらしいというのだろうか。
「それに・・・」
「ん?」
「以外に楽しいじゃないか。綺麗な宝石や美しい絵画に出会え、手に入れられる。警察や軍隊から逃げるスリルは、怪盗じゃなきゃ味わえないからね」
「まあ、な」
ジョーカーも、スリルに関しては同じ気持ちだ。怪盗だからこそ、味わえるスリルがある。捕まりそうになるが、そこをすり抜けてまた宝を盗む。スリルが止められない。怪盗と言う職業は、麻薬と同じなものだ。
「あー、喉乾いた」
「そこに販売機があるから買ってきてやるよ。何がいい?」
「んー・・・コーラ」
「ジョーカーらしいね」
くすっと笑うスペード。それに釣られ、ジョーカーも笑う。
ベンチから反対側にある自動販売機の前に立つスペード。
「(コーラコーラ・・・・あった)」
お金を入れて、コーラの所のボタンを押す。ごとっと言う音を立ててコーラが落ちてくる。それを取り、今度は自分のを買う。
「・・・・(やっぱり紅茶かな?)」
午●の紅●のミルクティーがあったので、それにした。

「はい」
「サンキュー」
コーラをスペードからもらう。冷えたコーラは、手に持った瞬間、手の体温を下げた気がした。プシュッと音を立ててキャップを開ける。ゴクゴクと勢い奥飲んでしまったジョーカー。
「・・・・ぷはぁー!やっぱ炭酸が強いな」
苦しそうな表情をしていた。
「ははっ、君も馬鹿だね」
「うるせーな〜」
スペードも、キャップを開けてミルクティーを飲む。枯れていた喉に、ミルクティーの潤いと冷たさが、染みた。
「暑い日には、こう言った冷たいものだね」
「だなっ!」


ジョーカーは早々にコーラを飲み終え、ブランコに向かっていた。あの年で乗るのか?
「おいおい、そんなのに乗るのか?」
「別にいいだろー?」
ブランコに座り、地面を蹴って、前に行く。後ろに来たら、また地面を蹴って・・・・。何故だろう。何処か懐かしい感じがした。
高く行くブランコ。高い位置で見た街並みは、何処か不思議だ。
「・・・・なあ、下の街って・・・」
「行きたいのか?」
「別にそう言う訳じゃ・・・・」
ただ、気になっただけだ。どんな街なんだろう?
「ブランコから降りて、こっちに来てみな」
スペードがいる場所に、ジョーカーはブランコを下りて向かう。
フェンスから見下ろす街は、ブランコからまた違う見かただ。高校があるのか、野球部の声がする。電車が通っており、ガタンゴトンガタンゴトン・・・・と、音が聞こえる。川もあるようだ。ここから微かに見える。車もたくさん通っていて、いろいろな音が交差している。
「・・・・・久々に、こうして街並みを見た気がする」
「僕もだよ。普通に暮らしている人々は、今日もあそこで普通の暮らしをしているんだな」
「普通の暮らし・・・・」
いつになるだろう。普通の暮らしをしていたのは。随分前に事かもしれない。学校に行ったり、ゲームセンターに行ったり、カラオケに行ったり・・・・。現代の子供らしいことなど、何一つしたことがない。
「羨ましいな」
「普通の暮らしが?」
「うん・・・・」
ずっと、怪盗としての修業ばかりしてきた。遊ぶことなど、滅多になかった。
「・・・・・・・ならさ今度、二人で遊びに行こう」
「えっ、マジ?」
「ああ」
「ありがとう、スペード!」
スペードの、予想外の言葉に喜びを見せるジョーカー。
「いついつ?」
「う〜ん・・・・・明後日」
「早っ!まあ良いけど」
「明日は互いに予告状を出している。だから、明後日だね」
「なら明日はいつもより頑張らなくちゃな!」
気合を入れるジョーカー。
「なら僕は、そろそろ帰るよ」
「あっ俺も」
二人とも、携帯を取り出し、パートナーに電話をする。




「じゃあ、明後日」
「またここで」
公園の出入り口で、約束をする二人。
左右反対の道を進む二人。
互いの心は、一つだが・・・・・。




「明後日が、楽しみだな」




END

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