怪盗クイーン

□神と信じない者への讃歌
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青年の身体を奪ったのは、悪魔であった。名前は不明だが、瞳の色が、元は茶色だった色が、紫色へと変わっていた。
悪魔は十字架を首から下げると、突然笑い出した。勿論、大通りで。そして何処からか現れたのか、剣を持っていて、周りにいる人間を次々に殺し始めた。
泣き叫ぶ声だけが、辺りを包んだ。
その場所は、血の海と化していた。
血を見た悪魔は更に興奮し、次の街へと向かおうとしていた。
そこをヴォルフと仙太郎に見つかるまでは。
「おい、イカれた野郎。お前、何者だ。その十字架、何処で拾った。」
「……生き残っていたのか。この十字架か?砂漠で手に入れたんだよ。しかも、この身体の主は、俺がここに封印された事を知らずに、持って帰ったようだ。良いやつだよ、全く。」
悪魔は二人の前から、闇に紛れて消えた。
「…っ旦那、今のって…。」
「恐らく、クイーンが落とした十字架を、一般人が拾っちまったんだろう。……それにしても、やつの一言が気になる。この身体を乗っ取ったって…。」
「……まさか、悪霊?」
「そこまでは分からんが…これは、急いでやつを追った方が良い。仙太郎は救急車と地元警察に電話しろ。」
「はーい。」
仙太郎は、警察に電話をしていた。ヴォルフは気になったので、仙太郎の電話が終わると、仙太郎を引っ張って、やつの後を追う事にした。




一方クイーンは、TVニュースで、十字架の事を知った。
「……まさか、嘘だと言っておくれよ……。」
1人、ソファーの上で、頭を抱えていた。
「こんな事なら、盗まなきゃ良かったし、ICPOに渡すとか、言わなきゃ良かった……。」
はぁ、とため息を付いたクイーン。
[珍しく、やからしましたね。]
「……本当だよ。こんな事になるとは、想定外よ……。」
また深く、ため息を零したクイーン。
「今回のは、全面的に私が悪い。責任は取るさ。」
果たして、どうやって責任を取るつもりなのだろうか。盗まれた物は、重大な物だ。そう簡単に、取り返せる品物でもない。
「どうするつもりですか?」
「……取り敢えず、私なりに、連絡を取ってみるよ。」
「誰にですか?」
「この前知り合った探偵にね。」
クイーンはスマホを取り出し、何処かの誰かに電話をかけ始めた。
「この前知り合ったって……誰だ?」
[さぁ…。私が知る限り、居ませんけど…。]
「…あぁ、もしもし。私だよ。……そう、緊急なんだ。今すぐ…そうだな。モロッコに来れるかい?え、遠い?なら……。あぁ、分かった。」
ポチっと電話を切るクイーン。
「何処の探偵と電話してたんですか?」
「そうか…。ジョーカー君は、知らないか。えっとね、この前イタリアに行った時に、知り合った探偵だよ。ま、直ぐに私の正体を見破った、凄い男だけどね。」
クイーンは、変装していたに違いない。それを見抜いたと言う事は、よほどの相手なのだろう。ジョーカーはどんな男なのか、内心ドキドキしていた。



暫くして。トルバドゥールはイタリア上空に居た。
「イタリア…?」
「RD、ここで下してくれ。」
[了解しました。]
二人を下ろすRD。そして、イタリアの地に着いた二人。
「多分、あそこのカフェに居るよ。」
当然の事ながら、二人は下りる前に変装していた。クイーンの正体が、その男にばれているとは言え、イタリア警察が嗅ぎ付けたら、大変な事態になる。ジョーカーは、今回の変装は随分ラフだな、と思っていた。クイーンの格好もそうだ。何処にでも居る、イタリアの青年…。と言った感じだろう。お互いに。


カフェに入ると、一人の男が手を振っていた。彼か。いつの間に、クイーンと知り合ったと言う探偵は。
外見は、とてもじゃないが、探偵っぽくない。失礼かもしれないが。彼もまた、ラフな格好をしていた。だがイタリア人っぽい顔立ちだ。瞳の色は、青かった。神の色は金髪で、ジョーカーよりかは少し長いぐらいだろう。
「ごめんよ、呼び出して。」
「いや、大丈夫さ。僕も暇してたしね。」
「クイーン……。彼は…。」
「おっと、自己紹介がまだだったね。僕の名前は、オーランド・テル・ドラリン。宜しく。」
握手を迫られるジョーカー。一瞬警戒して、クイーンの方を見たが、クイーンは大丈夫。と言う顔をしていた。
「……宜しく。ジョーカーです。」
「彼から聞いてるよ。凄腕の友達なんだって?」
「僕は仕事上のパートナーです。」
「おや……。」
握手していた手を離され、オーランドは少し驚いていた。
「……聞いてたイメージと、大分違うね。」
「クイーン、どんなイメージを、彼に話していたんですか。」
「え?いつも通りだよ?ジョーカー君は優しくて、強くて、いつでも守ってくれて、とっても素直な子で…。」
そこまで言い掛けた時、ジョーカーがオーランドに向かって言った。
「僕は、本当にただのパートナーですから。それ以上の関係でも無いです。」
「(手厳しい…。クイーンのやつ、嘘の情報を、僕に寄越したな?全く…。)」
オーランドは少しため息をついて、まぁ座ってよ。と言った。
「大体の要件は分かってる。マスメディアが酷いからね。僕なりに、推理はしてみた。」
「ほう?あの短時間で?聞かせてもらおうか。」
何故、いつもクイーンは上から目線なのだろうか。ジョーカーは少し、戸惑っていた。
「あの十字架。元はプロテスタント派の教会の牧師が持っていたんだ。しかもその牧師は、不思議な事に、牧師なのに、悪魔祓いが出来たんだ。今はもう、死んじゃってるから、詳細は不明だけど。で、その悪魔祓いする時に、あの十字架を使っていた。だがある時、大きな悪の力、悪魔の力が牧師一人を犠牲にしないといけないぐらい、強大な力を持つ、悪魔が現れたんだ。その牧師は、命を懸けて、悪魔をその十字架に封印した。そして、怪盗クイーンは、何も知らずにそれを盗んでしまった。」
「…そんな事があったのなら、盗まなかったよ。」
少しむくれ顔で言うクイーン。
「で、だ。何故悪魔は、たった一人の人間の意志を操れたのか。簡単な話さ。あの十字架を手に入れた人物の祖先が、悪魔崇拝をしていたんだ。勿論、拾った本人は、そんな事は知らされてなく、たまたま、砂漠を通り過ぎただけで、拾っただけで、身体を奪われてしまった。」
「…奪われた理由は?」
ジョーカーが、すっとその会話に入って来た。
「それも簡単だよ。彼には、信仰心が無い。信仰心が無い人間の身体は、恰好の獲物だよ。何せ空っぽだからね。神を信じない者の身体は、貴重なのさ。更に加えると、自分に自信が無いやつ程、入りやすいものさ。」
つまり、自分も…?一瞬、ジョーカーは、身を寄せた。それを見たクイーンは、そっとジョーカーの手を握った。はっとして、クイーンを見たが、クイーンはオーランドを見ていた。
神を信じていないクイーン。もし、運が悪かったら、クイーンも乗っ取られていた…?だがクイーンは、自分には絶対の自信を持っている。それはジョーカーもだ。自分の事は、一番に信じている。
この時のクイーンの手は、とても温かった。
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