カゲロウ学園

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「ぁ……」

やってしまった。
虚ろな顔をしたカノとモモを前に、俺はただ立ち尽くしていた。

「おい、これはどうした?」
「っ!!」

部外者の突然の声に、思わず体がビクッと跳ねる。

「あ、せ……せぃ?」

喉が乾いてうまく声が出せない。
担任の薊先生は今日も真っ黒な服を着て、すげぇ仏頂面だった。
何を考えているのか分からない。
それがすごく怖かった。

「これは……お前がやったのか?」
「ち、ちが!……わ、ないです」

どれだけ言い訳をしたところで、これは紛れもなく俺がやったことだ。
いつだって、散々な結果しか生み出せなかった俺のせい。
俺は、自分への嫌悪感でどうにかなってしまいそうだ。

「何をした?」
「言えません」

まずい。この人には誤魔化しとかそういうの効かなさそうだし、本当のことを言ったとしても信じてくれそうにない。
そうして無言の睨み合いが続く中、先生が口を開いた。

「反省しているなら、もうするな。同じ過ちを繰り返すのは愚かな人間のすることだ」
「……!」
「お前は、そんなに愚かじゃないだろ」

俺を攻める訳でもなく、いつもの仏頂面でいつもと同じように接してくれた。
その日のHRはチョークを飛ばされることも、出席簿で叩かれることも無かった。

「HRを始めたいところだが、コイツにらは私の声が届くのか?」
「いや、届きません」
「そうか、なら私からの諸連絡を後で伝えておけ」
「わかりました」

俺はこの人の言葉をきっと忘れない。
きっと今のままだとダメなんだ。
そうしないといつか同じ過ちを繰り返してしまう。
だったら、俺は今ある選択肢のなかで一番分かりやすい答えを進むだけだ。



×××



「勝手に洗脳して悪かった。もう二度としねぇから」
「え?ちょっ……」
「どこ行くの!?」

結局皆の意識が戻ってきたのは、2時限目が終わった後の事だった。
俺はと言うと……カノとモモに謝罪して、そのまま逃げた。

「……!」

下駄箱を開けるとあの茶封筒がご丁寧にセッティングされており、また吐きそうになる口元を必死で押さえながらそれをわしづかんでポケットに突っ込んだ。
すぐに靴も履き替えて、宛もなく走り出した。

後ろの方で、カノとモモが俺を呼んだ気がした。

「はぁ……ここまで来れば大丈夫だろ」

何が大丈夫なのか俺にも分からないが、何かそんな気がした。

これが俺の“答え”。
一番分かりやすくて簡単なことだ。
自分を変えることは難しい。

だったら、俺が消えてしまえばいい。
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