だいすきをキミに text

□奥方の葛藤
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紅明様が他の女の元へ行くことについては理解しているつもりだった。
それが、こんなにも誰かに嫉妬したりするものに変わってしまうのなんて、想像したことはなかった。
だって、誰かに嫁げば側室のひとりやふたりは、当たり前だと姉様に言われていた。
わかっていたことなのに、紅明様が私以外の女を褒めたり、触ったりするのが、とても嫌だ。
こんな感情、失くなってしまえばいいのに。


「清蓮様、今朝は紅明様の元へは「行きたくない」…左様ですか。では、その旨を伝えてまいります」


藍々はとてもいい子だ。私がいま、どんな気持ちなのかわかってくれる。
紅明様は今日、私がいないことにどういう反応されるだろうか。
ただ、喧しい存在がいなくなったと思われるのか。
今考えれば、紅明様と夫婦らしいことをした記憶が…あまりないのは、別として、毛玉とか言ってことがバレたのかな。
だから、私よりもお上品な方でも選ばれたのだろうか。
そんなことを、考えていると藍々が戻ってくる。


「あのですね、清蓮様。紅明様より清蓮様がお声がけしてくれない限り寝台からは起き上がらないと言付けを承りました」

「あの毛玉、そんなことを言っているのですか。昨日は、人の話も聞かないで消えたくせに」

「失礼ですが、昨日は捨てられる捨てられない騒ぎをされていた方のお言葉ではないと思いますが」


まあ、そうだけれども、藍々の言うとおり私は昨日、荒れ狂っていた。
本当に、紅明様に捨てられてしまうのではないかという不安が、襲ってきてしまっていたから。
普段から、少し紅明様のことを変な呼び方で呼んでいるのは、愛想をつかされるかつかされないかという気持ちのもちようなら、つかされないと思っているから、できるものであって、今回は別です。


「わかりました。今日もきっと軍議があるはずです。紅炎様のご迷惑にならないようにしなくてはいけませんね」


そう思いながら行きたくない紅明様のお部屋へと向かった。
途中で、紅覇様に「明兄がすごいことになってるよぉ」と言われたので、遅く歩くのをやめて早足で向かう。

部屋の前に来てしまうと、さっきまでの決意はどこに行ったのかわからないくらいに、迷い始めてしまう。
きっと、まだ気持ちの整理がついていないのだ。
それなのに、紅明様は強引に私を。

影が出来たかと思えば、忠雲が目の前にいる。
昨日のこともあり、少しぎこちない。


「清蓮様、ご主人様にはちゃんと伝えました。俺たちには男女の関係がないことを。理解はしているはずですが、なかなかご主人様も行動に移せなくて、このような形になってしまいました。清蓮様には申し訳ありません」


忠雲の謝罪については理解した。それに、状況がちゃんと理解できても私に誤解していたことを謝らない、毛玉様は何なのです。
こんなにも、忠雲が誠実に謝罪と弁解をしたというのに。
なんと、嘆かわしい。


「あなたが謝る事ではないから、もういいのよ。紅明様を起こさなくて、紅炎様にご迷惑が掛かってしまうから、私はそろそろ行きますね」


忠雲の言葉で決心し、私は紅明様の自室へ入る。


20140925

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