だいすきをキミに text
□すれ違った想い
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「ちょっと、忠雲を呼んできてくれるかしら」と、藍々に頼んだのが少し前のことだ。
白瑛様がご帰還なされれば紅明様は、まず、はじめに白瑛様を褒めちぎる。
その姿を横で見ている私は不愉快でしかない。
白瑛様にその気がないのは、わかっているのに、どうしても紅明様の態度をみているとイライラしてしまう。
やっぱり、女としての器の大きさは白瑛様のほうが上だということがわかる。
同じ年齢ということで、私の中では劣等感しかない。
「お呼びでしょうか、清蓮様」
「ええ、呼びましたよ。私がこう不愉快にならない方法はないのでしょうかね」
突然、主語なしの会話をされてもわからないはずなのに、そこは忠雲のよさで察してくれた。というよりも、毎回毎回、白瑛様がご帰還なされるたびの恒例行事となりつつあるから、わかっているのだろう。
それにしても、これを恒例行事にしてしまうあたりが私の悩みになっている。
「やっぱり、私には魅力がないのでしょうか」
「そんなことないと思いますよ。ご主人様も、清蓮様のことは気にしていられますし」
このやり取りは今回で何回目だってくらいに同じことを毎回繰り返している。
そろそろ、呆れているのではないだろうかと思うが、それでも忠雲は私の話を聞いてくれる。
紅明様の部下を捕まえて私は何をしているのだろう。
「毎回言いますが、ご主人様は照れていらっしゃるんですよ。だから、清蓮様に魅力がないなんてことはありません」
「本当ですか?」
「本当です。これは、俺の忠義にかけてもいいくらいです」
「ですけれど、私以外の女性を囲うのはやっぱり私の…」
無限にこの会話は続けられてしまうので、いつも誰かが止めてくれる。
それでも、今回は呼んだ時間が時間だ。
今日は白瑛様のご帰還の日だから、宮中は慌ただしい。
そんな中、私はこの甲斐性なしの毛玉の部下である忠雲を呼び出したのだ。
「清蓮、いますか?白瑛殿がご帰還なされるので一緒にお出迎えにでも…どうですか」
忠雲に泣きながら話している私の部屋に紅明様が来るなんて予想外だ。
そもそも、予想のしようもない。私の部屋を訪ねてくることなんて滅多にないのだから。
紅明様だと気づいたときには、私は忠雲の裾を借りて泣いている。
他の男に身体を許したようなものではないか。こんな私にきっと紅明様は愛想を尽かしてしまう。
「こ、紅明様っ!!!私、私は…」
「…気にしないでください」
口ではそう言っているが、目が笑っていない。
こんな冷たい紅明様は、はじめてみた。その視線が、私の心を砕く。
「では、私は失礼します」
「…紅明様っ!!」
私の訴えなど、届かないのだろうか。紅明様は、すぐに部屋から出て行かれた。
その後ろ姿が、私を捨てて他の女性の元へ行くような気がして私は怖い。
20140903