だいすきをキミに text

□余裕なんてありません
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「紅明様、おはようございます」
朝から爽やかな笑顔と共に紅明様を起こすために、紅明様の自室に向かう私は何て健気なんでしょう。
はしたないやら、なんやら言われましたが、これくらいやらないと紅明様との時間が少なくなってしまう。
あまり、夜も私の元へ来てくださらないために、女としての自信がなくなってしまう所存です。


「…ようございます」

「起きてくださらないと、泣きますよ」


のそっと動く音が聞こえ、紅明様が寝台から降りる。
その姿はなんというか、毛玉だ。紅い毛玉がいる。
そんな姿でも、紅明様が素敵だと思えてしまう私が紅明様のことを愛しているからだ。


「…来てくれていたのですね、清蓮。こんな姿で、毎回申し訳ありません」

「いいのですよ。紅明様の妻として、あなた様を献身的にお世話することこそが私の勤めだと思っています。ただ、帰りを待っているだけの女でいるのは嫌なのです」

「そうですか。いつも、あなたと顔を見ることができて私は嬉しいですよ」


些細なことですが、ふっとしたときに見せてくださる紅明様の微笑まれたお顔が大好きなのです。
私はそのために、この朝から紅明様を起こすという有難いような迷惑なような役を買ってでているのですから。
私の役目は起こすだけであって、着替えさせるのは紅明様付きの侍女のお世話である。
そこまでしてしまうと、流石に侍女の仕事を奪ってしまうために部屋へ引き返すようにしている。
部屋へ戻ってすることはなく、紅明様に昔頂いた文や本などを読むか侍女と話をするだけ。


「清蓮様、大変言いにくいのですが…」

「何ですか?」


部屋でお茶を楽しみながら本を読んでいると、侍女の藍々が困った顔をしながら告げてくる。
その言葉に、どうしようもない嫉妬心を覚えてしまうのは私がまだ子どもだからなのかもしれない。
それに、紅明様をまだ信じきっていないのかもしれない。


「白瑛様が本日、ご帰還なされます」


この言葉が、どれだけ私の心を狂わせるのだろう。
だって、紅明様が白瑛様に取られてしまう。
本人は気づいているのか知らないけれど、白瑛様の前だと無自覚にデレデレなんですよ。
私のときなんて、微笑みを見せて下さるだけ。
やっぱり、私には女としての魅力がないのでしょうか。


「私も何か武芸でも身につければよかったのかな…」

「清蓮様、それだけはやめてください。あなた様は煌帝国が第二皇子 練 紅明様の正室なのですよ。奥方は夫が安心して帰れる場所を作るのが仕事だと私は思っております。そのため、清蓮様に無用なことです」


ここまで、バッサリと否定されると何だか凹む。
それでも、やっぱり紅明様を振り向かせたい。
だから、ここは忠雲にでも相談するべきなのか。でも、忠雲も忙しい身だからな…。
そんなことを考えながら、紅明様が訪れるのを待つだけだ。


20140831

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