だいすきをキミに text

□奥方の憂鬱
1ページ/1ページ

いつか素敵な世界を見せてくれると約束した毛玉は、最近私のことを避けているようにしか感じない。
白瑛様にいつもデレデレしているあの毛玉はなんなのだ!!
私はあの毛玉の妻である前に煌帝国お抱えの魔導士なのに、この扱いは解せぬ。


「清蓮様、紅明様がご帰還なされました」

「本当ですか!久しぶりに紅明様に会えるんだ」

「お喜びのとこ申しますけど、はやく行かなければ紅明様は寝床に向われてしまいますよ」

「あっ、忘れてた。あの毛玉っ!!!」


毛玉と称しているは私の夫でもある紅明様のことだ。
普段は、毛玉なんてこと紙くずくらいにも思っていないし、そんなこと紅明様本人に言ったことはない。
だって、こんなこと奥さんに言われているなんて知ったら怖がられてしまいそうじゃないですか。
お淑やかな奥方で通っているのですから。
侍女の言葉を聞いてすぐに紅明様の自室へと向かう。
まず、はじめに皇帝陛下の元へ向かわれるはずだから私は紅明様の部屋で待っていれば確実に会えるはずなのです。


「おかえりなさいませ、紅明様」


部屋に向かえば、何故かもうそこには紅明様の姿がある。
私への報告が遅かったためか、半分眠りに就こうとしている紅明様に素敵な笑顔をみせることによって、脅して…いえ、爽やかに目覚めていただかなくては。
そんな私の声を聞いた紅明様は「お久しぶりですね、清蓮」なんて、他人行儀な挨拶をしてくる。
これは、いつものことだから気にも留めないが白瑛様を褒めるときはいつも以上に饒舌な気がする。
それも、少し前までは白瑛様に仕える立場だったからいた仕方がないとは思うが、妻である私に対して興味がないように振舞われては困る。


「見苦しいところを見せてしまっていますね」

「いえ、紅明様もお疲れなのに押しかけてしまい申し訳ありません」

「大丈夫ですよ。あなたのところには行かなくてはと思っていたので」


そんな言葉だけでも、十分に嬉しいのだけれど言葉は言葉で終わってしまう。
なぜならば、この人は立ってでも寝るという技を身につけているからだ。
不健康な人だとは常々思っているけれど、婚姻を結んでからもこのような生活をされていては困る。


「すーすー」

「紅明様っ!!!!」

「…あ、はい。寝てしまっていましたか」


声を張り上げてしまうのは、野蛮な行為だと思いながらも私は久しぶりに会えた紅明様を起こさなければと躍起になる。
だって、私と会っている時でさえ寝られてしまえば、次に会うのがいつになるのかはわからない。
妻といえ、紅明様は煌帝国の軍師様でお忙しい方だ。
それに、暇さえあれば鳩にえさやりをしてしまうという、動物愛護者でもある。
そんな方に私は嫁いだのであれば、自ら行動するしかないのだ。


20140829

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ