magi

□世界が幸せになれる御伽噺
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「琴姉ぇ〜、炎兄と結婚式しないの?」

「えっ?」


いきなり、紅覇が部屋に遊びに来たかと思えばそんなことを言ってくる。
さっきまでは、「明兄って肌ボロボロだよね」と紅明様の美容について散々、言っていたのにいきなり紅炎様との結婚の話になってしまった。


「明兄から聞いたよ。まだ、結婚式してないんでしょ〜」

「そ、そうですけど…紅炎様はお忙しい方なのですよ」

「知ってるけど、琴姉は炎兄と結婚式挙げたくないの?」

「…挙げられることなら、してみたいとは思います。でも、紅炎様は頷いてくださるはずがありません」

「もっと、自信を持ちなよ。琴姉は綺麗だよ。だから、炎兄のそばにいてあげて。そうじゃないと、僕たちが困るしぃ〜」


紅覇の言っていることがよくわからなかった。それに、何故紅覇たちが困るのだろうか。
そんなことを言いながら、そうそうと部屋を退出してしまった紅覇に問うこともできずに、紅炎様が私向けに選んでくれた本を読む。
最近は本を読むことが楽しみになっている。紅炎様が私のために選んでくれたことが、とても嬉しくてそれと同時に少しでもいろいろなことを知りたいと思う。
ゆっくりと流れる時間は、私には大切なものになりつつある。



***



「紅覇様、俺たちを集めて何をなさるんっスか?」
李青秀、楽禁、周黒惇、炎彰、紅玉、夏黄文、関鳴鳳、純々、仁々、麗々が集められた。その中で、紅覇に疑問をぶつける李青秀。


「まあ、聞いてよ。炎兄と琴姉のために結婚式をしようじゃないの。あのふたりがやっと本当の意味で夫婦になれたんだし」

「さすが、紅覇様。おふたりを思って、そんな素晴らしいことをご計画とは」

「私、紅覇お兄様の意見に賛成しますわ」


女性陣はすぐに賛成してくれた。紅玉が賛成するということは、夏黄文は賛成したも同然。
あとは、炎兄の配下であるあいつらが賛成すればいいだけのこと。


「白琴様はそれを望んでいるのか?」

「琴姉は炎兄に遠慮してて言えないんだよ。だから、僕たちが琴姉のためにも力になってあげようじゃない」

「白琴様のためならば致し方ない」


琴姉の名前はすごい効果を持つこと知っている。みんな、初代皇帝の愛娘の琴姉のことを大事にしているって言うのは知っているし、それに炎兄が大事にしていることも知っているから、すぐにまとまった。


「じゃあ、一週間後でいいよね?」


僕の言葉に誰も否定はしなかった。
何故ならば、みんながみんなで少し楽しそうだったから。
きっと、みんな琴姉と炎兄のことが大好きだからだ。
そうとわかったら、明兄に伝えなくっちゃ。


「明兄、いるぅ〜」

「紅覇ですか。どうしました?」

「ねえ、炎兄と琴姉の結婚式したいんだ。それで、僕たちからも何か炎兄と琴姉に贈り物をしたいと思うんだけど…」

「…そうですね。兄王様と白琴様にですか。それは、私に任せてもらえますか」

「よろしくねぇ」


着々と準備を進めながらはやく炎兄たちに知らせたい気持ちと驚いて欲しい気持ちが交差する。
そんな夕暮れに、ふたりが仲睦まじく庭園を散歩しているところを見ると何だか幸せな気分になれた。



***



式当日。
琴姉を僕が、炎兄を僕が連れてくることになった。
みんなは先に、会場となる部屋へと向かっている。
他の家臣たちにバレると、うるさいから絶対に秘密にしてある。


「紅覇、そんなに急いでどうしたの?」

「いいから、早く来てよぉ」


紅覇に手を引かれながら連れてこられたのは、離宮よりも奥にある小さな建物。
そこには、小さいながらも軍議をするのにも使用される部屋であった。
連れて行かれた場所が場所なので戸惑ってしまうが、紅覇が楽しそうだから、何も言わずに着いてきた。
紅覇いる時間はとても楽しいものだから私にとって、どこに連れていかられても苦にはならない。
実の弟のように可愛がっている義弟でもある。
暗くなっている部屋に入れられ、びっくりするも悪戯か何かと考える。
手探りで、近くに何かあるかを探るが、何も見つからずにいたら、右手がそっと触れたものに腕を取られてしまった。


「…っ」

「誰だ」


聞き覚えのあるその声に安心しきってしまったために、声を出すこともせずに痛いと思う腕にさえ、その痛みが嘘のような感覚になっている。


「紅炎様ですか?」

「白琴か。驚かせるな」

「あなた様が驚くことなんてあるのですか?」


ふふっと笑ってみる。
暗闇に目がなれないが、きっと紅炎様も口元を緩めているはずだと想像してしまうと可笑しくて笑ってしまう。


「何を笑っている」

「いいえ、何でもありませんよ。ただ、可笑しくて」

「そうか。しかし、紅明に連れてこられたのだが、何をやるつもりなのか」

「紅明様に?私は紅覇に連れてこられたのですよ」


疑問に思っていると、紅炎様は納得したかのように「あいつら」と言い放つ。
まったくわからないために、聞こうにこの状況があまりにも初めてなために少しだけこのままでいたいとも思ってしまう。

その時、目には痛いくらいの光が差し込んできた。


「炎兄、琴姉。僕たちから結婚式をプレゼントしたいんだ」

「…紅覇」


紅覇の明るい声と紅炎様の涼しいように低い声。
このふたりの声を聞きながら、少しずつ慣れた目を使い周りを見ると見知った人たちばかりがいる。
紅玉に紅明様に紅炎様の配下の者まで、縁深き者ばかりだ。


「若たちは、忙しくて何も出来なかったと思うんで、俺たちからの気持ちです」

「白琴お義姉さま、私お義姉さまの義妹であることを誇りに思いますわ」

「兄王様、それに白琴様。私たちからのささやかな気持ちですから受け取ってください」


渡されたものは、綺麗な白い色の服で初めて見るようなものだった。
これは、ドレスというものであることを紅炎様が教えてくれた。
紅玉が私のために選んでくれたことを夏黄文が言う。


「着てみろ」

「…似合うでしょうか?」

「着てから決めろ」


声からすれば関心がないように聞こえるが、顔を見れば穏やかな顔をしていることがすぐにわかる。
「こんな顔をする若は、あなたの前だけですよ」と李青秀がそっと教えてくれる。
仁々、純々、麗々に着替えを手伝ってもらいながら着てみれば着心地は悪くないと思う。


「白琴様とても素敵です」

「紅炎様もきっとお喜びになりますよ」

「そうだといいわ」


褒められながら紅炎様の元に向かう。
きっと、このドレスを着る機会なんて今回だけなのだろう。
それに、結婚式をプレゼントされるなんて思わなかった。
婚礼の儀はあまりにもパッとしないもので終わってしまったからかもしれないが、少し憧れていた。
紅玉の結婚が決まった時は、羨ましいとも思ってしまった。
そんな自分が、今日できるのは紅覇たちのお陰だ。


「紅炎様、みなさんお待たせしました」


素敵な白に包まれて、愛しい人のもとへ向かう。


20140620
title:寡黙

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