magi

□甘い匂いに包まれて
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「母上様、父上様はいつお戻りになるのですか?」

「そうね、あなたがいい子にしていたら早く戻ってくるかもしれませんよ」

「はい」

可愛らしく笑う息子の問いに曖昧に答えることしかできなかった。
つい先日、今日戻ると手紙があったもののまだ帰還の知らせがないからだ。
幼い息子に余計な心配を掛けないようにと、配慮した嘘に胸が痛んでしまう。


「白琴それに紅陽、いま帰った」

「おかえりなさいませ、紅炎様」


背後から聞こえてきた声にしっかりなければと耐えていたいままでの姿勢が崩れる。
なんで、こんなにも私の心をいつも掻き乱しては安心するような言葉をくれるのだろう。
その度に、甘えてしまう私がいる。


「父上様、約束は守りました」

「そうか、偉かったな」


紅陽の頭を撫でながら、私を引き寄せる腕は紛れもなく紅炎様のもので、いつも私はこの逞しい腕に支えられている。
紅陽は撫でられることに慣れていないのか、恥ずかしそうにしているが、その姿を見るだけで微笑ましくなる。


「あっ、やっと笑ってくれましたね」

「えっ?」

「母上様は父上様がいない間はいつもなんだか悲しそうでした。でも、父上様がいると母上様は嬉しそう」

「ほう、それは初耳だな」

「えっ、あっう。そそそんなことないですよ。紅陽も変なこと言わないで」


逃げようとしても逞しい腕の中からは逃げることは叶わず、それに足元には幼い息子がいる。
そんなふたりの板挟みにあって、顔を真っ赤になりすぎて誰にも見せることができない状態だ。
それなのに、紅炎様はおもしろがっている。
いつもは、あまりそんなギラギラとしたような瞳はしないのに今日に限っては違う。


「白琴こっちを向け」

「…嫌です」

「あまり意地を張るな。いじめたくなる」

「それは…ちょっと」

「気にするな。紅陽は幼いながら気が利く」

「父上様、紅明様と遊んできますね」

「ああ、そうしろ。…言っただろ、気が利くと」

「ええ」


気が利くのは紅炎様にとっての解釈だろうか。私にとっては、状況はよろしくない。
そんな紅陽はちょうど廊下を歩いている紅明様を見つけて、飛びつくと紅明様は後ろに倒れてしまったので、慌てて近づこうとすると紅炎様が耳元で「行くな」と、行ってくるのでその場を離れることができない。
それをわかっている紅炎様はズルい方だ。


「紅明は鍛えるべきだと思うが」

「紅炎様がお強いからその必要はないのでは」

「おまえは、紅明を擁護するのか」

「そそ、そんなつもりで言ったわけじゃありません」


面白がっているのかわからないけれど、ますます紅炎様の顔が見れなくなってしまった。
久しぶりの紅炎様なのに…と、考えていると無理やり顔を向けさせられる。


「久しいな。こうして、おまえの顔を見るのは何ヶ月ぶりだろうか」

「2ヶ月ぶりくらいです」

「そうか。長い間、留守にしてすまなかった」

「いえ、お忙しいことはわかっています」

「まだ、聞いていないこと言葉があるな」


意地悪そうに笑う紅炎様に耐久性がないのか、すぐに真っ赤になってしまう。
何年夫婦をやっているのかと、言われてしまったらかなりの年月と答えることしかできない。
昔から私は紅炎様が好きで、こんな風になることができるなんて夢のようだと思う。
父上、兄上たちが死んだ時に私を支えてくれたのは紅炎様だった。
遠征に行かれる度に、あの時の記憶が蘇り無事に帰還してくれることだけを願っている。
そんな、紅炎様に言えるただひとことは。


「おかえりなさいませ、紅炎様。長い間、お待ちしておりました」


笑って紅炎様をこの宮殿にお迎えすることだ。


甘い匂いに包まれて

20140227
Title:リラン

4周年リクエストが零様がリクエストしてくれた物を載せてあります。

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