magi
□この愛は今でも美しいままだから
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「琴姉ぇ、入るよぉ」と紅覇の声が聞こえる。
白琴は泣きつかれたのか俺の腕の中で寝ている。
こんな姿をあいつが見たらなんと言うだろう。
「え、炎兄。なんで、ここに」
「それは、俺が聞きたいことだな紅覇」
「そ、それは…ま、いいか。どうせ、琴姉のことだからすぐにわかると思うし。これ、琴姉に頼まれていたものです」
紅覇から渡されたものは紅だった。真っ赤な紅。
これは、いつもあいつの唇を彩っている。紅覇に頼んでいたとはな。
「それにしても、琴姉も幸せ者だよね。こんなにも、炎兄に想われて。それなのに、あんなにも悩んで」
「…紅覇、何か知っているのか」
紅覇は隠すことなくすべてを話しだした。
最初は抵抗があったのかチラチラと俺と白琴を見るが、どうやら俺の腕の中にいる白琴の顔が穏やかなのを確認すると話し出す。
この弟は、どうやら白琴を本当の姉のように慕っているらしい。
「琴姉は、炎兄に嫌われていると思っていたんだよ。ずっと、幼い頃から。前皇帝の命だから、婚約者となってくれたんだって言ってた。それに、あの時にどうして私を捨てなかったのかって。こんな可愛くもない私をそばに置いたって仕方がないのにねって寂しそうに笑うんだよ」
「あいつは、少々思い込みが激しいようだな」
「まあ、ね。炎兄がそばにいる時点で気づかないとか本当に鈍いよね。白瑛とかなら、すぐに気づくと思うけど…でも、あの姉妹は疎そうだなぁ」
紅覇にはすべて話すことが出来ても俺にはまだ出来ないのか。
俺といる時間よりも紅覇といる時間の方がいつしか、お前の中では多くなっていたのか。
それでも、俺はお前をそばに置き続ける。生殺しのような扱いだとお前は思うかもしれないが、俺はいつしかお前に惹かれていた。
それを言葉にすることは、簡単なものではなかったな。
言葉にしなかれば伝わらないこともあるのだと思い知る。
「炎兄、僕は戻るね」
「ああ、紅覇。また、こいつの話し相手にでもなってくれ」
「頼まれなくても、炎兄にとって大切な人なら僕にとっても大切な人だから約束するよ」
そう言う紅覇は笑顔だった。あまり、俺にも見せることのない笑顔だな。
そうか、あいつはこんなにも紅覇から慕われているのか。
兄として、兄弟たちの期待に答えなくてはな。
俺自身の気持ちに嘘をつく必要もない。こいつを幸せにできるのは俺だけだと自惚れてもいいだろうか。
***
「目が覚めたか」
「紅炎様、私は…」
「取り乱すな。お前は俺の妻であり、最初で最後の女だ」
この言葉に何の意味を持つのだろう。
この言葉だけで白連は安心できるのだろうか。
「私は私は…幸せになってもいいのでしょうか」
目覚めた彼女が口にした言葉は、誰もがこいつに願っていることだ。
幸せになって欲しいから、そばに。
誰かがこいつを導かなくては。それが俺の役目であればいいと。
「当たり前だ」
「…紅炎様」
泣きじゃくる少女は昔から知っている白琴ではなく、ひとりの女である。
ただ、少女から女性への成長が止まってしまった雛でもある。
この女を愛すると決めた時から、俺の中にはこいつしかいなかった。
ただ、静かに泣く白琴をそっと抱きしめることしかできない。
20140307
Title:寡黙