magi

□嘘の仮面は破れない
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綺麗な丘だった。
私がはじめてみた世界の隣には紅炎様がいた。
そのことが今だに信じられない。こんな私を外に連れ出してくれた紅炎様には感謝しきれない。
あの丘で摘んだ花を花瓶に挿し、毎日眺めることが私の唯一の楽しみでもある。
きっと、周囲から見れば私は幼子のようなものだ。


「白琴いるのでしょ」


久しぶりに訪れた母上。私はとても嬉しく思っていた。
滅多なことがない限りに母上は皇帝陛下のそばから離れない。
そんな母上が私を訪ねてくるなんて、何だろうと思いながら部屋へ招き入れる。


「ああ、白琴久しぶりね。愛しい我が子、会いたかったわ」

「私も母上にとてもお会いしたかったです」

「紅炎がなかなか、あなたに会わせてくれなくてね」

「紅炎様が?」

「ええ、そうなのよ」


はじめて聞かされたことに驚いてしまった。
紅炎様は何故、私と母上が会うことを許してくれなかったのか。
そのせいで私は母上に捨てられたとばかり思っていた。
私を惨めにすることしかできないのかしら。


「てっきり、私。…母上に見捨てられたかと思っていました」


本音を述べてしまえば、母上は涙を浮かべながら「誰が愛する我が子を見捨てたりしますか。あなたは私の大切な宝なのよ。亡きお父上だってそのはずです」と、言いながらそっと私を抱きしめてくれる。
懐かしく感じるこの感覚。
母上の暖かさに私は酔っているのか。
それでも、紅炎様が与えてくれる温もりとは違う。


「そんなあなたが最近、外に出たと聞いたときは倒れるかと思いましたよ」

「申し訳ございません」

「いいのよ。全ては紅炎から聞いているから」


そうか、私はこうやって紅炎様に母上と会う機会をすべて奪われていたのか。
だから、私は籠の鳥と呼ばれ紅炎様にすべて管理されているのか。
私はもうどうしたらいいのかしら。
母上の前で泣いてはいけないと思いながら、涙を流してしまう。
枯れたはずの涙が何故、流れてくるのかわからない。


「母上、私は…私はもう無理です」

「…何故?」

「母上に会うことが叶わずにいたこの数年間、私のそばにはあの方しかいませんでした。私は、家族が…母上が白瑛が、白龍が好きなのです」

「…そう。私の可愛い白琴」


ただ優しく抱きしめてくれるだけなのに、何故こんなにも私は安心してしまうのだろう。
今まで、私は何もかも貯めていたのだ。全ての感情を。
この感情をすべて紅炎様に向ければ、私は母上に見放されたように紅炎様にも見放されてしまうと思ったから。
それでも、すべてが逆だと思ったら。
あの丘に連れて行ってくれたのも、すべて私を騙すためだったのかもしれない。
私はもう誰を信じればいいの?


「私は紅炎様に見放されるのでしょうか?」


この言葉がなにを意味しているのか自分自身でもわからない。
ただ、母上は「そんなことはないわ。だって、あなたは紅炎の后なのだから」と言いながらも、口元は笑っていない。
ここには嘘しかないのか。


20140326

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