magi
□わかり合うことが愛ではない
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「兄王様、どうしたのですか?」
あいつの部屋の前で寄りかかっている俺をみて、不思議に思ったのか紅明が話しかけてきた。
「あいつは、俺のもとに来て幸せなのだろうかと思ってな」
少し自嘲気味にもなる。あんな言葉を聞いた後だ。
紅明は察しのいいやつだ。いまこの部屋の前にいれば嫌でもわかってしまうだろう。
「厚かましいかもしれませんが、私と一緒に鳩に餌やりにでも行きませんか?」
紅明の提案にはびっくりしたが、それもいいものだと思い承諾する。
鳩に餌やりなどしたことが、今まであっただろうか。いや、ないな。
そう思えば、この弟とは少し趣向が違うことを思い出す。
たまに、こういうものもいいものだ。
「姉上とはどうですか?」
「どうだろうな。俺にもわからない。あいつの瞳には輝きがない」
「輝きですか…」
そう言いながら、苦笑する紅明に何だかあまり気持ちのいい感情は浮かばなかった。
あいつのことを思い出せば、思い出すほどわからなくなる。
あいつと出会ったのは幼少の頃。いつも俺の隣に来ては読書の邪魔をするわけでもなく、ただ黙りながら俺を眺めるか絵を描いているか、たまに一緒に読書をするかくらいのことしかしなかった。
会話らしい会話だってあまりしたことがなかった。
自分はこの国の臣下として白雄殿下に仕えるものとばかり思っていた。そして、あいつ自身どこかに嫁いでしまうのだろうと。
あいつ自身が俺に嫁ぎたいと申していると聞いたときは、驚きもした。皇帝陛下の弟の息子というだけでそばにいることを許されている存在だと思っていたからだ。
そのときの俺にあいつを好きだと思う気持ちはあったかと言えばなかった。
ただ、皇帝陛下の命により許嫁になったと言えば、それだけの関係だったからだ。
「失礼ですが、白琴様のことを慕っていますか?」
「っふ、無論だ」
「そうですか」
紅明の顔は、いつもより少し微笑んでいるようで少し不気味と言えば不気味だ。
慕うというよりもそばにいて当たり前。その前に、白雄殿下たちが死んだと聞いた時のあいつの絶望にも似た顔を思い出す。
あの時、俺ははじめて白琴を美しいと思ったのと同時に、儚くどこか守らなければ消えてしまうのではないかというくらいの庇護欲が襲ってきたのを覚えている。
これを慕うという言葉で片付けていいものだろうか。
「それにしても、外は眩しいですね」
「おまえは外に出無さ過ぎる」
「それを言うなら、籠の鳥も同然な方がすぐそばにいるではないでしょうか」
「籠の鳥とはな・・・」
その言葉を聞けばすぐに誰のことかはわかる。
たまには、外へ連れ出すこともいいのかもしれないな。
あいつとの距離は埋められるようなものではなくなっているのは確かだが、どちらかが歩み寄らねばならないのも確かなことだ。
20140122
Title:寡黙