magi

□キスひとつで終わる関係
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私は恋なんてしてはいけなかったんだ。
小さい頃から、ずっとずっと紅炎様が好きだった。
父上にも、ずっと「炎にぃさまのお嫁さんになりたい」と我儘を言い尽くし、父上と叔父上が話し合った結果、私の好きなようにしてくれた。
それが、すごくうれしくて紅炎様の気持ちなんて考えたことはなかった。
そのときに気づいていればよかったんだ。
紅炎様には、私に対する気持ちなんてないってことに。


「白琴、おまえは空ばかり眺めるな」

「そうですか。今日は綺麗な青が広がっています。雲ひとつない青が」

「そうか」


会話らしい会話なんてない。
昔はただそばにいるだけで、うるさかった心臓がもうなにも言わない。
私の恋は枯れ果ててしまったのか。
父上と兄上たちが死んだときに、なにもかもが失われたような気持にさえなった。
それに、よく私はあのとき紅炎様の許嫁の地位を脅かされなかったことが不思議でしょうがなかった。
婚約など、その機に破棄してしまえば紅炎様は私のようなひとと一生添い遂げることはなかったのに。


「本当だな。空が青い」


いつ近くにやってきたのかはわからなかった。
気配を消していたのか、私が考え事をしていたから気付かなかっただけか。
どちらにせよ、彼が近い。


「外に出たいと思わないのか」

「私は、城から出たいと思ったことはありません」

「そうか、世界が狭いとは思わないのか」

「そうですね。紅炎様に比べたら私の知っている世界はここと貴方様の隣と家族と侍女だけです。それでも、私は満足しています」

「なら、少しだけ俺の話を聞け」


ただ、紅炎様の話してくれる話に耳を傾けるだけ。
それだけで、あの人は満足したかのような顔をする。
この行為に何の意味もなく、ただ夫婦がのんびりと同じ時を過ごしている。
時間がないのに私と一緒にいる時間を無理に作る。
ひとりで読書をすればいいのに、その傍らに必ず私を置く。
その行為が意味をもつ日は来るのかと思えば、いくらたっても変わらない。
昔からそうだった。
彼は読書が好きで私がそばにいて、ずっと私そっちのけで没頭していた。
それでも、構わず私はずっと彼のそばにいた。ただ、その間だけ彼を独占できるからという理由で。


「外とは広いものですね。…いつか私も国の外を見てみたいです」


話が終わって、少しだけ外に関心がでてきた。
昔、置いてきてしまった感情のように溢れてくる興味。
私の瞳をみた紅炎様は「輝きがもどったみたいだな」と、言う。
輝きとは、私にはどんな輝きがあるのか。
それを聞きたい。でも、聞けない。
我儘を言ってしまったら、また私の元から大事な人が消えてしまう。
そう、思えば私はなにも言わない。


「少し目を閉じろ」


言われたとおりに目を閉じれば、唇に暖かい感触がする。
その行為は、ずっと続けてきた行為。
彼の気まぐれから行われる行為のようなものだ。


「なあ、白琴。近々、紅玉が結婚する。それに、一緒に来い」


狭い世界が終るような言葉だった。



20131026
Title:確かに恋だった

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