magi

□いまさら嫌いになれるわけがなかったよ
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大好きで大嫌いなあの人。
兄弟といっても血の繋がりはない。
先代の王であった父上が亡くなり、母上は叔父にあたる人と再婚した。
そのため、揺るぎなく自分の皇后という地位を確立している。
叔父上がもともと母上のことを少なからず好きだったということは知っていた。
そのためか、父上が亡くなった途端に母上への求婚を迫っていたのを何度も見かけた。
それでも、口出しができなかったのは私があの人の許婚だったからで。
父上と兄上たちが巻き込まれた大火が起きた時には、すでにあの人の元にいたから私は助かった。
そのとき、私には力がないことに気付いて、でもどうすることもできないことがわかって。
恨むのはお門違いだってわかっていても、私は紅炎様を恨んでいた。




***



「…夢か」

酷く懐かしい夢をみた。母上が再婚を決めた日。
私はもう皇女という立場から離れていて、第一皇子の正妃という立場になっていた。
そのときから、私の妹弟は紅炎様の本当の妹弟になった。
私をみたときの彼らの表情はいまでも覚えている。
白瑛は泣きながら抱きついてきて、白龍は必要以上に甘えなくなっていた。
あんなにも泣き虫で、甘えただった白龍が私を必要としなくなったのは、なぜかはわからなかったけれど、それは父上や兄上を亡くしてしまったショックだと無理やり納得させた。


「いるか」

「はい、なんでしょう」


昔の夢を見たせいか、頭がはっきりするまでに時間がかかっていた。
私を現実の世界に引き戻したのは、大好きで大嫌いあの人の声。
綺麗な紅色の髪が綺麗で、朝日と共に見ればそれはまた美しかった。


「先代の皇帝が亡くなって、今年で10年経った。今日は命日だろう」

「…そうでした。今日、父上や兄上たちが亡くなった日でしたか」

「覚えていなかったというのか」

「いえ、ただ。懐かしい夢を見ていたのですよ。夢見心地がよかったもので、つい」

「…そうか」


なにを伝えたかったのかわからなかったけれど、あの人はあの人で私のことを気にかけてくれているのか。
それを、幸せと呼ぶべきか私はただ生きながらに飼い殺される動物と同じなのか。
まだ、わからないでいる。


「お前の見ている世界が俺にはわからない。昔みたいな輝きを感じられない」

「世界とはなんでしょう。私にも世界がわかりません」


紅炎様に向かい合えば、彼は眼を伏せる。
そして、伏せた眼が私を捉えたかと思えば、ひどく険しい顔になる。
なんで、そんな顔をするのですか?問いたいけれど、問うていいのかわからない。
いつから私は本音を隠すようになってしまったのか。きっと、あの人たちが死んだと知った日からだ。


「泣いていたのか。腫れている」


瞼が重かった原因はそれか。懐かしい夢をみていたからか。
優しい手つきで、私の目元を触るこの人は紛れもない私の夫。
練紅炎様のものだ。



20131016
Title:確かに恋だった

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