◆ 雪月華【2】斎藤×千鶴 (本編沿)

□御陵衛士の二人
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【御陵衛士の二人 2】



斎藤はいつものように、夜ふらりと月真院を出た。
もう見咎める者は無い。

平助は御陵衛士の一人と呑みに出た後、娼を買った。
「今夜は泊まるから、上手く誤魔化しといてよ」
そう言って連れと別れた。
暫く様子を見た後、斎藤の居る揚屋へと潜り込んだ。



「はじめ君、本気?」
平助は斎藤の居る部屋に入るや否や、近藤暗殺の件を率直に切り出す。
斎藤は手酌で酒を煽った。
「その前に、平助。
あんたは覚悟が出来ているのか?」
「覚悟……って……そりゃあ……」
「ならば何故近藤さんを襲う話に動揺する?
新選組を出る時に、いつかこんな日が来ると分かっていた筈だ」

斎藤を責める気分で来た平助だったが、斎藤の指摘に萎えた。
「……俺なりに、こんな事にならない方へ何とかしたかったんだ」


やはり平助は新選組に心を残しているのだな、と斎藤は判じた。
平助が御陵衛士になった事に自信があるなら、平助を新選組に戻す論が斎藤にはあった。
戻れば、平助なら、平助自身が基準にすべきものに気づけるだろうと思っていた。
だが平助自身がまだ揺れているなら自分の言葉は平助の奥には届かない、と考えていた。


「はじめ君、ホントに近藤さんを殺すつもり?」
「……成功するとは限らん。近藤さんは強い」
斎藤は、平助にも建前を押し通す事にした。
「そうだけどさ……」


狙いが近藤でも土方でも、この襲撃は成功しない。
斎藤がこの話を土方に持ち込めば、土方は必ず先手を打つ。
その時には御陵衛士は終わる。
その為の雌伏だったのだから。


苦しそうな平助を前に、斎藤も平助が前に進める事を切に願う。
少しばかり短慮だが、平助の裏表のない明るく真っ直ぐな気性が嫌いでは無かった。
周りをも明るくする所は自分には無いものだ。
仲間であったし、仲間であり続けて欲しい。
………………………………千鶴にまとわりつく所を除けば、だが。


だから、無駄とは知りつつも斎藤は言った。
「平助。お前は新選組に戻れ」
「はじめ君……!」
平助は驚いた顔で斎藤を見た。
その後苦しそうな顔になり、ゆっくりと苦しい笑みが浮かぶ。
「それは……出来ないよ……」
「出来る。暗殺計画を新選組に持っていけば良い」
「……はじめ君。1度裏切った奴がまた裏切らないとは限らない。
俺は戻れないよ……」

斎藤は息をついた。
平助は新選組を出た日から変わらない。
揺れたままの平助では、やはり翻意させる事は出来なかった。


「はじめ君は、良いの?」
「俺は、俺がやるべき事をやるまで」
「それが近藤さんを斬ること?」
「それが俺のやるべき事ならば」
斎藤の言うやるべき事とは、暗殺計画を新選組に知らせる事である。
だがそれを平助に言う訳にはいかない。
平助が伊東に暗殺計画が新選組に漏れた事を伝えないとは限らないから。
この最後の最後に人を信じ切らない斎藤の性質が、土方の懐刀である所以だ。

近藤を斬ると明言しないのが斎藤の平助への誠意だったが、伝わる筈も無かった。


「計画が動き出せば戻るに戻れなくなる。
自分がどうしたいか、何が大事か、あんたはまだ自分を判っていないようだ。
見栄も屁理屈も忘れて新選組に戻れ。戻ればあんたにも見える。」


言うだけ言うと、斎藤は立ち上がった。
平助も引き止めず黙って見送った。
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