◆ 雪月華【2】斎藤×千鶴 (本編沿)

□とある隊士の覚書
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【とある隊士の覚書 2】



「はっじめ君」
沖田がいつものように、断りも無く障子を開け放つ。
「何用か」
目を閉じて端坐していた斎藤が、静かに答えた。

「三番組の子たちとの巡察、終わったよ」
「手数をかけさせた。すまぬ。で?」
そんな事をわざわざ報告に来る沖田では無い事を、斎藤は知っている。

「三番組の子たちから差し入れ預かってきた。はい」
沖田は斎藤の部屋に入り込み、斎藤の前にしゃがむと包みを突きだした。
「…………団子、か?」
「うん」
怪訝な顔をしながら斎藤が受けとる。
「……俺が甘いものを特に好いておらぬ事は知っているはずだが…ずいぶんと量が多いな。
何か事情があるのか?」
「千鶴ちゃんと食べて欲しいんだってさ」
「千鶴と? 何故?」
「わかんない?」
「……さっさと言え」
斎藤の目が僅かに苛立つ。

「千鶴ちゃんがはじめ君を体を張って助けたから、
千鶴ちゃんに、はじめ君と一緒に過ごして欲しいんだってさ」
斎藤の目が更に苛立つ。
「わかるように言え」
「千鶴ちゃんは飲み比べをして、はじめ君を、体を張って助けたんだって」
「……………………。」
斎藤の顔が、やや渋くなる。

「千鶴ちゃんは体を張る位はじめ君が大好きだし、
はじめ君も千鶴ちゃんが大好きだから、
謹慎中のはじめ君への差し入れは千鶴ちゃんにしよう。
どうやったら千鶴ちゃんを差し入れられるかって考えてー」
「…………総司。バカな事を言っていないで、本当の事を言え」
「本当だよ」
「総司」
「千鶴ちゃんに、はじめ君と一緒にお団子を一緒に食べて貰えば、
千鶴ちゃんをはじめ君の傍に置けるじゃない?」
「いい加減にしろ」
「本当だよ。はい、これ」

沖田が斎藤に1枚の紙を差し出した。

『よろしければ
雪村君と召し上がって下さい
お戻りをお待ちしております
三番組 一同 』

斎藤は一度瞬きをして、もう一度読み直した。
その字は確かに、園田一という真面目な隊士のものだ。

「千鶴ちゃんを呼んでくるねー」
「待て総司!」
「何?」
「千鶴を呼ぶ必要はあるまい。
これを千鶴に渡してやってくれ」
斎藤は団子の包みを、まるごと総司に渡した。
「そ? じゃ、渡してくる」

あっさり受け取って部屋を出た沖田を、斎藤は険しい顔で見送った。
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