◆ 斎藤×千鶴(転生パロ) +SSHL

□北へ走る 11
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◆◆◆◆◆◆



平助の来訪を待って始まった夕食の、楽しい時間はあっと言う間だった。
雪村の到着で、それまで賑やかだったキッチン横のテーブルのある部屋は静まった。

伊東と雪村、千鶴と井上が一つのテーブルを占拠している。
平助は遠慮しようとしたが、一が動く気配が無かったため、そのままもう一つのテーブルに一と居座る事にした。

一の正面に座っていた平助だったが、こそっと横に移動して小声で話かける。
「…ただ帰るとかじゃなくて、なんかあんのか?」
「すぐわかる」
「…ケチらず教えろよ。一君も今日はなんか変だしさ。 全然呑まねぇんだもん」

「平助、ここに居ろ。忘れ物を取ってくる」
一は立ち上がって車のキーを取り出すと、外に出て行った。




「雪村さん、夏休みいっぱいの予定だったじゃないか。
千鶴ちゃんが居てくれて助かっているんだけどねぇ」
「伊東さんが気分を害しているんでね。ついでだから連れて帰る」

「そう言うけど、伊東さんだってやり過ぎた自覚はあると思いますし…」
「…何のこと?」
伊東はニヤリと笑った。
井上は驚いて伊東を見た。

この時、一が黒いファイルを持って戻ってきた。
「何それ?」
平助が小声で一に聞いた。
「車検証」
「…さっぱりわかんねぇ。 何が始まるんだよ…。今日は千鶴の送別会だろ?」
一は平助の耳に顔を寄せて話した。
 
「ヘンタイおやじとロリコンおやじの吊るし上げだ」 
あいつらのことか?と、平助は四人が座るテーブルを指さした。
一は軽くうなずいた。
それは面白そうだ、と、平助は一ににやりと歯を見せて笑ってみせた。

隣のテーブルでは井上が顔色を変えている。
「伊東さん…あんた、自分の行動に責任ってものを感じてないのかね?!」
「だから、なんのこと? 私が蹴られた事?」
「そうされるだけの事はしただろう、伊東さん」
しかし伊東はクスクスと笑う。

「どういうことですかね、井上さん。 お客さんが、伊東さんを蹴ったという事ですかな?」
雪村も余裕の笑みを向けている。

井上は、何を言ったらこの二人に通じるのかと、思わず黙り込んだ。

そこで一は口を挟んだ。
「正当防衛だ。襲われたから、身を守ったまで」
「…ふうん? 血の気の多い若者のたわごとと、私の言葉と、どちらが信用されるかしらねぇ?」
伊東はまだ余裕がある。

「…襲われたって、一君が?」
思わず平助が呟いた。千鶴が顔を上げて、平助に頷いた。
「証拠の動画はあるが」
一はスマホを見せる。
「そんなの握りつぶすのは簡単なんですよ。 私は前の首相の秘書だったんだから」

「うわー…大物じゃん…」
平助は、一の分の悪さに思わずぼやいた。
「そうでもないだろうな」
一がそう言うと、やっと伊東の眉が不快そうにぴくりと動いた。

「…生意気な子ね。 やってみる?」
腹立たしそうに言う伊東に対し、一の表情は全く変わらない。

「構わない。 あんた、偉かったなら、公安の藤田の名前は聞いたことぐらいあるだろう?」
「公安の…藤田…って…」
「あんた、公安にも顔がきくか?」
一の淡々とした声が続く。

「俺の叔父にあたる人なんだが。俺の車の車検証だ。使用者は俺だが、所有者の名前を見るか?」
井上は、以前言っていた一の言葉を思い出し、謎が解けた。
事件のもみ消しは自分には通用しないという事だったのだ。

一はスマホを再度持ち上げる。
「あんたの強制猥褻罪映像だ。 見るか? 俺としては見苦しいからあまり見せたくないのだが」
「…っ!」
伊東の顔色が変わった。

平助が一の手からスマホを取り上げて映像を見ようといじり出した。
千鶴も席を立って、平助の手元を覗き込もうとする。
それを見た一は慌てて平助からスマホを取り上げた。

「なんだよ! みせろよ!」
「…そんなに知りたければ、後でお前に追体験させてやる」

「…平助君、やめた方が良いよ」
「え?千鶴知ってんの?」
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