◆ 斎藤×千鶴(転生パロ) +SSHL
□北へ走る 8
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サンダルを履いたまま水辺に寄っていく。 そのまま水の中へ入っていく。
水遊び、といった雰囲気ではなく、一は慌てて千鶴の腕を取って後ろへ引いた。
「斎藤さん?」
「…ああ、すまない…」
ごく普通の反応が帰ってきた事に一は戸惑った。
「…竜神が居そうだ。 連れ去られて花嫁にすると言われては困る」
つい口を突いて出た言葉に、一は自分に呆れた。
千鶴もあからさまにびっくりした顔になる。
「…斎藤さんがそういう事言うのって、凄く意外でした…」
「………俺もそう思う」
一は顔を左手で覆った。
最近見慣れた気がする斎藤の照れ隠しのその仕草に、千鶴は笑った。
「…母が、三月に亡くなったんです」
「…そうか」
「はい。母はガンで通院していたんですが、去年、担当医だった人と…私はあまり賛成できなかったんですが、結局再婚して…。
それで、今は、義父と二人なんです」
一の奥で警戒心が首をもたげた。
「その義父との関係で少しあって…、それで井上さんが、夏休みの間だけでもって連れ出してくれたんです」
千鶴は、一が無表情な事にほっとした。
あからさまに騒がれたり同情されたりするのが嫌だったから、表情の乏しい、通りすがりのような旅人であるこの人にこんな事を言い出したのだ、と、話しながら気付いた。
「竜神の花嫁って、幸せそうですね。でも、どうやって息するんでしょうね?」
黙って聞いてもらえ、一仕事終えた気分になった千鶴はすっきりと笑った。
千鶴が言葉を選んで話した状況は、一にはすぐ理解出来た。
心臓がばくり、ばくりと跳ねだした。
千鶴の置かれている環境も理解できた。
一は脳の中で最近の愛読書と化している六法全書を開き、関係のある条項をピックアップして整理する。
やや難しい問題が一つあるが、その問題がクリアできれば千鶴を自由にすることは可能だ、と判断した。
いくつか知人の顔ぶれを思い出し、なんとかなるように思えた。
見通しが立つなら問題は解決できる。
一の心臓は大人しくなった。
「竜神の魔法で、エラ呼吸できるようになるんじゃないか?」
一の返事にあっけにとられた千鶴は真面目に考え込んだ。
「魔法…って、妖精とか、魔法使いが使うものじゃないですか…?
竜神は…使わない気が…」
「それよりも問題はエラの場所と大きさと機能だ。高機能でなければ大きなエラが必要になる。
そうなると、見た目に影響が出る。顔にエラをつけるとすると、ここがこう膨らんで…」
「息をするたびにおたふくみたいになる!?」
「そうだ」
千鶴は嫌そうな顔をした。
「……可愛くない…」
「もしくは、鼻にエラの機能をつけるとすると、人一人分の酸素を水中から取り込むために、大量の水を鼻から吸い込んで…」
「斎藤さん! もういいです! 花嫁は止めです!」
「そうか?」
怒り出した千鶴を見て、一がはっきりわかる笑顔を浮かべた。
ああ、笑った。
千鶴は嬉しくなった。 初めて寝顔を見た時、この顔が笑ったら良いのに、と思ったのだ。
その顔が見れた。
千鶴も自然に笑う。
「帰ろう。 今からなら、夕食に間に合う」
一が差し出した手を取って、浜辺を再び歩き出した。
軽い足取りの千鶴の横で、一は、見た事の無い千鶴の義父への怒りを、どう形にするか計算し続けていた。
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斎藤リーガルハイ…
あと少し、がんばれ、あたい!