◆ 斎藤×千鶴(転生パロ) +SSHL

□北へ走る 7
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顔色は思ったより悪くはなさそうだ。
額にそっと触れてみると、熱は無いようだ。
唐突な睡眠ではあったが寝顔も穏やかで、確かにただ眠っているだけと見える。

普段からこういう寝方をする人なのだろうか…。

一の顔を千鶴は見詰めた。
鼻筋の通ったスッキリとした整った顔。
唇はやや薄いだろうか。 
目の切れ目は思っていたより長い。
睫毛がびっしりと長く、その影のせいでいつもは目の大きさを感じないのかもしれない。


千鶴はそっと膝の上の頭を撫でた。
小さな頭骨。 もう少し身長があったら、モデルのスカウトが沢山くるのではないかと思う。


起こさぬようにゆっくりと髪を撫でていると、これが慣れた仕草であるような錯覚が起きた。

千鶴の本当の父親は千鶴が小さいころから居ないので、父に膝枕したことは無い。
彼氏も居ないので他の男性にもした事は無かった。
しかしこうして一の髪を撫でていると、ドキドキより気もちが落ち着く方が強い。

それに…。
この髪の感触や、頭の大きさ…というか…感覚が、妙に手に馴染む。

そう言えば、15分したら起こせって言われたっけ。

千鶴は膝が動かぬように気にしながら時計が無いか目を上げた。

まずは広間の方に目をやったが、仏像が立つような場所にはそのようなものがあるはずも無かった。
しかし、仏像はさておき、広間を部屋の外から見る景色には既視感を覚えた。
記憶には無い情景である。 写真で見たのかな、と千鶴は軽く考え、荷物をそっとひきよせ、携帯を取り出し時間を見た。
そして携帯を戻すと、再びそっと一の髪を撫でた。


ぼんやりしていると、自分たちが入って来た入り口から作業服のような上着を来た50絡みの男が横を通って行った。
入り口からは死角になっているため気づかれなかったようだった。

その男は奥の方へ姿を消したが、すぐに戻って来た。
そして千鶴達に目を止めた。

「…熱中症? 大丈夫?」

怒られるかもと思った千鶴は優しく声をかけられほっとして答える。
「…ずっと走って来たので、眠くなってしまったみたいで。
少ししたら出て行きますので…すみませんが少しだけ休ませてもらえますか?」

「ゆっくりして構わないよ。 調子悪い様だったら奥で休めるから声かけて下さい」
親切な男の発音は少し籠っていて聞き取りにくかった。
武骨で少し素っ気ない印象だが、これが地元の人の話し方なんだな、温かいな…と千鶴は感じた。

千鶴がお礼を言うと、その男は何もなかったように出て行った。
その背中を見送った後、千鶴は一に視線を戻した。

そして、再び髪を撫でる。

ぼんやりと、千鶴は車の中で起きた懸案事項に思考を巡らせた。



斎藤さんと呼んで良いのか、名前をよぶべきか…。



眠っているのを良い事に、千鶴は小さな声で試してみた。

「…さいとう、さん、 …は…は…」
はじめさん、とは、やはり声にしにくかった。
口だけを、はじめさん、と、動かしてみる。

「…斎藤さん…さいとお、さん…、さいとーさん…」
色々な言い方で名字をつぶやいてみる。

一が目を覚ます気配が無いのを確認して、千鶴は思い切って小さく声にしてみることにした。

「…はじめさん…」

その呼び方はひどく甘くて照れくさかった。
目が開いた一にこの呼びかけをするのは出来そうもないな、と千鶴は思った。
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