◆ 斎藤×千鶴(転生パロ) +SSHL

□北へ走る 2
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下へ降りると、60絡みの女性が居た。
「あ、気が付かれましたか。 お食事の用意ありますけれど、召し上がれますか?」

一は、井上という宿主と雰囲気が似ていると感じた。 おそらく細君なのだろう。
やはり人の良さそうな笑顔を向けてくる。

「お願いします」

「どうぞ、こちらへ」

にこにこと案内された場所とテーブルに、正直なところ、一は少し面食らった。

十畳ほどの部屋に、大き目の四人掛けのテーブルが2セット。

その片方に、四人分の食事の準備が並んでいる。
普通は、スタッフと客が同席はしないだろう、と思う。

その奥にはキッチンと、もう一組四人掛けのダイニングテーブル。

キッチンでは、「千鶴」がそのダイニングテーブルで皿に料理を盛っている。
一を見ると、小さく会釈をした。

民宿や宿屋というより、丸っきり、どこかの家庭の食事風景に入り込んだ錯覚に陥った。

「お、起きたかい? …さっきより顔色は良くなったみたいだねぇ」
「井上さん」が一を迎えた。

「…ご迷惑をおかけしました」

「食べられそうかい? 御粥か雑炊にしようか?」

「いえ、大丈夫です」

一がそう言うと、千鶴がお盆に乗せた皿をこちらのテーブルに運び始めた。

食事が準備されるのを見ていると、一応自分はお客扱いされているのが分かった。
箸は割箸だがきちんと箸置きに置かれているし、並べられた料理の皿数が二皿多い。

「一人で食べる方が気楽なら、移動させるよ?」
にこにこと「井上さん」が言う。

どうやら、一人で食べるよりこの方が良いだろうと思っての事のようだった。

気が張りそうだったが、今更一人で食べたいと言いだすのも気が引ける。

「…いえ、このままで」
一は大人しく自分の席らしき椅子に座った。

料理が揃う。 味噌汁の匂いが空腹を刺激する。
体調は随分良くなったと実感した。

一の正面に「井上さん」が座り、隣に細君らしき人が座った。

この時点で一は少しドキリとした。

では、隣に来るのはあの「千鶴」だとわかる。

可愛い女性に隣に座られるのはやはり緊張する。

キッチンでの作業が終わったらしく、千鶴は一の後ろを、ふわりと女性らしい柔らかな香り…リンスの香りらしきものを漂わせて、一の横に座った。

ほんの少し椅子を一から離したように見えたのが、わずかに辛い。

「はい、いただきます」
「井上さん」の声の後に、女性二人がいただきます、と声をそろえる。

言い損ねた一は更に緊張した。

ここは自分も言った方が良いのだろうか?
しかし三人はもう食べ始めている。

「い…頂きます」
小声で言って箸をとる。
「おかわりありますから、良かったら言って下さいね」
細君の言葉に一は小さく頭を下げ、汁椀を手に取る。

隣で千鶴が緊張の度合いをやや強めたのが分かったが、何が出来る訳でもない。
気にしないようにしよう、と思い直して一は椀に口をつけた。

ふわりと立ち上る味噌汁の味と香りに、肩の力が抜ける。
美味い、と思った。味噌汁の熱が胃に落ちると、ぱあっと体も熱くなり汗ばむ。
二口、三口と椀を傾ける。具は豆腐とわかめ。豆腐が大き目に切られているのが好みに合っていて嬉しい。

盛られたご飯の量を見やり、これはお代わり貰う事になるな。などと考えていた。
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