◆ くだらない話(all)

□(現代)億千万の胸騒ぎ【3】
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【億千万 17】


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斎藤と千鶴の引いたおみくじは悪くない結果だった。
だが、隣り合わせて指定場所に結び付けた。
ずっと一緒に居られますように。
想いを託して結ぶ。
並んだおみくじを、斎藤も千鶴も少し見詰めた。
「来年も」
「はい。来年も」
おみくじから互いへと視線を移して、短く言い合った。

手を繋がれ、歩き出した斎藤について行く。
土方たちが居る店の並ぶ方へと足を向けているが、
千鶴でさえゆっくり歩けるほどの早さ。
「月が随分上に来てますね」
「そうだな」
「綺麗ですね。空気が揺れないから?」
クリスマスに話した事を思い出し、千鶴は笑う。
「……それに、正月休みに入って空気も少しは綺麗なのだろう」
「そうですね」
千鶴は周りを見て、人の少なそうな暗がりを目で探した。
人が多いので人目が無い場所というのは見当たらない。
階段らしき下の木に目を止めた。
あそこなら、少しだけなら人目が避けられそうだと思った。

意を決して斎藤を仰いだ。
「斎藤先輩。こっちに」
手を引くと、何も言わずについて来てくれた。
木の陰に落ち着くと千鶴は斎藤を見上げた。
「誕生日プレゼントを渡したいので、ちょっと目を閉じて頂けますか?」
「もう貰った」
以前、この日に会えるだけで良いと言った斎藤に、
千鶴は笑いかけた。
「……ありがとうございます。すぐですから」
斎藤は千鶴を見つめた後、目を閉じて待った。
「そのまま、ちょっと小さくなって頂けますか?」
言われた通り、膝に手を付き、かがむ。
クリスマスにマフラーを貰ったので
高い位置のものなら帽子のようなものだろうか、と思った。
次の瞬間、唇を柔らかな何かがかすめていった。
思わず目を見開いた。
すぐ近くに千鶴の顔があった。

「あの、えっと、お誕生日おめでとうございます。
生まれてきてくれてありがとうございます。
何も要らないというリクエストに応えてみました」
緊張したのか、強ばりを残した千鶴の笑顔だった。
斎藤は自分の顔が熱くなっていくのを感じながら千鶴を見詰めた。
膝から手を離して立ち上がる。
「……最高のプレゼントだ」
斎藤は鳴り響く心臓の音を聞きながら、乾く喉で辛うじてそう言った。
千鶴の顔が安心したように柔らかな笑顔に変わっていった。
不意打ちのキスは、あっという間に去ってしまったのが惜しい。
もう一度感じたい。
手を伸ばし、千鶴の頬に触れる。
千鶴の頬も熱かった。
「……礼を」
そう言うと、何をしようとしているか気付いた千鶴の目は閉じられていった。
さっきよりもほんの少し長い時間、唇は触れていた。
触れ合わせた唇を離すと、とても相手の顔を見られない。
斎藤も千鶴も別々の方向を向き、手を繋ぐと、
別々の方向を向いたまま歩き出した。



……すぐに姉貴に電話をしなくて良かったっ!



斎藤、心のガッツポーズ。

二十分程も、何をするともなく歩いた。
「……そろそろ電話を」
「そうですね」
照れあい、目を相手と他所とに泳がせながらうなづきあう。
斎藤は手は繋いだまま、左手だけで器用にスマホを扱い電話をかけた。
場所を決めて土方と双葉と落ち合った。



先に着いていて待っていた土方と双葉は、
近付いてくる斎藤と千鶴を見つけて顔に作り笑顔を張り付かせた。
「うわー、恥ずかしい」
「見てられねぇ」
手を繋いで話しながら歩いてくる斎藤と千鶴はお互いしか見えていないので
土方と双葉にまだ気づいていない。
「初々しくて良いんだけど」
「どうにも小っ恥ずかしいのは年食った証拠か?」
「私まだ若いけど、すごく小っ恥ずかしい。
腹立つー」
「ブラコン」
「そっちじゃない。私、腕組んじゃうから手を繋ぐってしたこと無い」
「悪いが、あれは俺には無理だ。他を当たれ」
「悪いけど、私も人前では無理」
「斎藤に繋いでもらえ」
「弟の手を引くのは小学生までで充分」
「一応は弟離れしてんだな」
「あー、見てらんない。どうしよう。こっちが照れてきた。逃げたい」
「同感だ」
そんな話をしながら、双葉は斎藤と千鶴に手を振ってみた。
やっと気付き、手がパッと離れた。
「うわー。マジ勘弁。堂々と繋いでいて欲しかった」
「あいつらは高校生なんだ、我慢しろ」
「承知」
ボソボソと話している土方と双葉の元に、
二人は軽く駆け寄ってきた。
「お待たせしました」
斎藤が土方に頭を下げた。
「大して待ってねぇよ。1時間位か」
「遅くなってすみません!」
千鶴が慌てて頭を下げる。
「こんなもんだろ。帰るか」
「はいっ」
双葉は土方を見た。
「センセー、親御さんに挨拶した方が良いよね?
雪村さんの家経由で帰ろう」
「そんなっ、」
「バカ野郎。こんな時間に一人で帰せるか」
「……すみません……」
「予定通りだ、気にするな」
土方は千鶴の頭をポンと撫でると体の向きを変えた。
「一緒にいられる時間が伸びて良いじゃない。行こー。
途中に甘酒のお店あったよね、センセー、私甘酒飲みたいでーす」
「脇に手を突っ込むなっ!」
「だってあっかい」
「くすぐってぇだろっ」
「けちー。ほら、行こう」
歩き出した土方と腕を組んだ双葉が振り返り、二人に声をかけた。
平気で腕を組んで前を歩く二人を見て、
斎藤と千鶴は顔を見合わせて赤くなり、
また互いから顔を背け、手を繋いでて歩いた。




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斎藤さんと千鶴ちゃんのベッタベタな流れは予定通りなんですが、
くすぐったくて小っ恥ずかしくて死にそうです。
砂吐いて息が詰まって窒息しそうです。
誰か助けて……。
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