◆ くだらない話(all)

□試衛館の冬
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土方は、寒さと騒ぎで再度眠れる気がしなかったが、とりあえず目を閉じる。

「総司!」
小さな声だったが、背後から斎藤の声が聞こえた。
「今度は何もしないってー」
音はしなくなったものの、斎藤からは緊張感が伝わってくる。
眠れねぇ………。

場所が背後なだけに、非常に気になった。

「…総司。いい加減にしろ」
また何かやったのだろう。
斎藤の声がした。

「手だけじゃんー」
「揉むな!俺に乳は無い!」

「さするな!」
「足は止めろ!」

………眠れねぇ………。

「…斎藤、こっちで寝ろ」

斎藤は布団を飛び出した。

土方は、斎藤を自分の布団の場所に移動させ、自分がその隣、その向こうに総司を配置すれば、
総司も自分には寄ってこないだろうから眠れる、と踏んだのだが。

「う?!」

斎藤は土方が布団から出る前に、土方の布団へ潜り込んでいた。
そして抱きついてくる。
押し返そうとしたとき、
「ぬくい…」
斎藤の蚊の泣くような声を聞いてしまった。

斎藤も、この寒さはかなりこたえていたのだろう。
幼子が安心したような声で言われては、土方は斎藤を突き放す事が出来なかった。

1人になった総司は、いびきをかいて寝ている新八をチラリと見、
土方と斎藤の布団を見る。

ニヤリ。

総司の口元が歪んだ。

総司は掛け布団だけを抱えて、土方の背後に取りついた。

「ひっ?!」

土方の喉の奥で小さな悲鳴が圧し殺された。

「…土方さん、土方さんって、なんかいい匂いしますね…。女みたいな」
再び、ニヤリ。

総司の腕の中で、土方が鳥肌をたてたのが判った。
総司は、土方の衆道嫌いをよく知っている。

「僕、土方さんは嫌いだけど、今なら良いかな…」
ニヤリ。

反射的に逃げようとした土方だったが、斎藤が既に寝息をたてはじめていた。

「土方さん…」
わざと耳に息がかかるように名を呼ぶ。

「…はじめ君が邪魔だね…」

総司の声に、土方はすがる思いで斎藤に抱きつく。

邪魔じゃねぇ!
斎藤ォォー!!助けろー!!

「…仕方ないなぁ。土方さん、また今度ね…」
そう言うと総司は動かなくなった。

土方はソロリと気配を伺う。
…寝た、か?

平時よりややゆっくりとした呼吸の気配がする。
土方は、1人ほっとして、目を閉じた。

…確かにあったけぇな…。

前にも後ろにも暖を抱え、土方も眠りに落ちた。




翌朝。
朝稽古に来ない面々を気にして、近藤勇は食客たちの部屋を訪れた。

「…………………………。」


1人木刀を降っている近藤に、妻が声をかける。
「おつね…あいつらに、布団を買ってやりたいんだが…」
近藤の妻おつねは、カッと近藤を睨んだ。
目が、そんな金どこにある!と刺してくる。

おつねは立ち上がると、食客たちの部屋の襖をパンと開いた。

平助を抱いた原田と、
総司と斎藤に抱かれた土方が寝ている。

土方に至っては、襟が崩れてその胸に頬を寄せる斎藤、
その土方を後ろから抱き、はだけた裾から足を絡める総司に挟まれている。



おつねは、再び襖を閉めた。


「だから…だからあいつら、嫌いなのよーっ!」

おつねの怒りが何に向けられたものなのかは、おつねしか知らない。
近藤は、おつねの声は腹によく響くなぁ、と思いつつ、苦笑いで木刀を振り続けた。


オワリ。
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