◆ 雪月華 【3】斎藤×千鶴(本編沿) 完結

□堰
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【堰 2】



「あ、あのっ?! お夕食は?!」
運ばれた先が、千鶴がさっきまで横になっていた蒲団だった為、
さすがに千鶴も慌てた。
「千鶴を喰ってから食う」
「え?! ま、まだ明るいですしっ」
「顔がよく見えて嬉しい」
「わ、私は恥ずかしいですっ!」
「恥ずかしがる顔が見たい」
「何を……んっ!」
口吸にそれ以上の反論を封じられ、そのまま千鶴はやっと着た着物をまた脱ぐ事になった。






男の人って、どうなってるんだろう……。



帰った途端に喰われた千鶴が、体に残る余韻に怠さを感じつつ食事をしているのに対し、
斎藤はケロリとしている。

もそもそと食事を終えた千鶴は、思い切って、斎藤の結婚観や夜の事を聞いてみようかと思った。
が、結局聞けなかった。
しかし数時間後、やはり聞くべきだった、と、またしても喰われた後、ぐったりしつつ思った。



***********



今日こそは!
今日こそは話をしないと、身が保たない!



千鶴はまず、出迎えの方法を変えてみた。

玄関口の縁まで行かず、少し手前で待つ。
口付の時には斎藤の腕の中にすっぽり入らず、さりげなく腕で距離を取る。

努力の甲斐があり、蒲団直行は免れたが。



失敗…………。
はじめさんの様子が、変……。



ぎくしゃくとして、何かを考え込んでいる風である。
千鶴の変化を悪い方向全開で考えているに違いなかった。



これは、早く本題に入らないと拗れる!



焦りながらも、洋装を解いていく斎藤の背中に魅かれてしまう。
沢山のものを背負ってきたこの背中は、さらに自分まで守ってくれて、矢面にも立って……。

斎藤の今までを思えば、何て贅沢な事を思っていたのだろう、と思えてきた。
(いや、でも、千鶴ちゃん…やんわりと言っても良いと思うよ…ヤりすぎ、って…)


有り難さと愛しさに、千鶴はこっそりと、溢れてしまった涙を拭いた。
ぐしっ、と鼻を鳴らした千鶴に、斎藤は動きを止めた。
斎藤が恐々振り返ると、千鶴が泣き笑いをしていた。
「ち、づる?!
な、何があったのだ?!」
「……斎藤さん……ありがとう…」
千鶴は、長着を羽織っただけの斎藤に腕を伸ばし、そっと抱いた。
硬い体は、それまで斎藤が誰かを守るために自分を磨いてきた証し。
「何があったのだ?!言え!」
「はい。言います」

自分の一挙手一投足で簡単に凹んでしまう斎藤に、今の自分が出来るのは、心配をかけないように自分の手の内を明かしておく事な気がした。

「……は、じめさんの背中を見ていたら…、だ、いすき、って、溢れてしまって……」
「それだけか?」
斎藤の目は、千鶴が本当の事を言うのを求めていた。

観察眼が鋭く相手を思いやりすぎる斎藤は、周りの人間の心の機微を見抜く。
そして時には一人で心を痛めてきたのだろう。
自分位は、安心出来る相手でいたいと思った。
だから精一杯誠実に向き合おうと思う。
「いいえ」
僅かに斎藤の目が怯える。

そう言えば、盃を交わしてからは、このよく揺れる目を見ていなかったな、と思った。
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