◆ 雪月華 【3】斎藤×千鶴(本編沿) 完結

□恍惚
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【恍惚 3】



「おや。斎藤君は居ないのですね」



開いた障子に、斎藤が戻ったのかと千鶴は顔を上げた。
居たのは、山南だった。
「すぐに戻られると思います」
そう言って千鶴はお盆を手に取り、立ち去ろうとした。
最近の山南は千鶴から見ても狂気を感じる。
今も、昔通りの才知の陰に、ちらつくものがあった。
「……雪村君。斎藤君の様子はどうですか?」
ついさっき、斎藤らしくない斎藤を見たばかりの千鶴の顔が、素直に動揺を見せた。
山南は小さなため息をついた。
「……吸血衝動は出ていますか?」
「苦しんでいる様子はありませんか?」
「あなたに血を求めた事は?」
立て続けに問われ、千鶴は山南を見たがすぐに目を逸らした。
元々冷たい目にもなる人だったが、昔垣間見えたのは誇りと自信と温かさだった。
だが今は。
「すぐにお戻りになられると思いますので、斎藤さんに聞いて下さい」
千鶴は山南に一礼し、体の向きを変えかけた。

腕を取られた。

「斎藤君にだけ鬼の血を与えているのでしょう?
斎藤君の様子はどうなのです?
他の羅刹たちと違いはありますか?
鬼は貴方だけではありませんから、安心して教えて下さい。
私が知りたいのは、鬼と人では血の効果に違いがあるか無いかなのですよ」

千鶴は山南の狂気にあてられて固まった。
怯えた哀しい目で山南を見上げる。
山南もまた、羅刹の毒に苦しめられているのだ。
鼻の奥が痛くなってきた。



その時。
「山南さん。千鶴に何をしている?」
聞いた瞬間、千鶴はゾッとした。
声の主は斎藤だとすぐに判った。
たがその声に含まれる抑えた怒りと敵意に、千鶴は、山南を前にした時以上に体を強張らせた。
斎藤は既に山南を味方と見なしていないのだろうかと思った。


山南の顔もまた、驚きを見せていた。
だが山南は、千鶴とは違う事を思ったらしい。
かつてごくたまに見せていた、慈しむような表情を斎藤に返していた。


「君の居場所を聞いていたのですよ、斎藤君」
「俺の?」
「ええ。少し話を聞きたくてね。
お忙しいでしょうが、立ち話程度の時間を頂けないかと思いまして」
山南の手が千鶴から離れた。
斎藤が無言なので、おそらく話をするつもりだろうと千鶴は思った。
「私、失礼します」
「ああ! 雪村君!」
「はい?」
びくりと体を震わせて、千鶴は立ち止まった。
「先程は驚かせてしまってすみませんでしたね。
これからは不用意に近づかないようにしますから」
「……ありがとう、ございます」
千鶴はお盆を抱えて立礼すると、部屋を慌ただしく出ていった。



さっきの質問を、山南は斎藤にするのだろうか、と思った。
その内容の苦さを面におくびも出さずに、斎藤は淡々と答えるだろう。
そして斎藤も気づくはずだ。
山南の目にちらつく焦りと狂気に。
そして。
その狂気を、斎藤は正面から見据えるのだろう。

何か、したい。
斎藤の為に何かをしたいが、出来る事は一つしか無かった。
それは斎藤が望まないものでもある。

けれど苦しいのも狂気に立ち向かうのも自分では無い。
泣く訳にいかない。
俯く顔をどうにか上げて、千鶴は歩いた。


――――――――――――――――


何が書きたいのかわからなくなってきました。
ラブラブっぷりなのか、マイ裏設定押し付けたいのか。
迷走中。


斎藤さん、千鶴ラブが皆にバレバレです。
今回はあからさまな悋気。
俺の千鶴に触るなオーラ。

あまり書いてはいませんが、普段から多分過保護。
バレない筈が無いよね、と。

斎藤さんのテーマソングは『セーラームーン伝説』です。
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