◆ 雪月華【2】斎藤×千鶴 (本編沿)

□御陵衛士の二人
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【御陵衛士の二人 1】



御陵衛士に間者として潜り込んでいた斎藤は、伊東や平助と連座して老中へ建白書を出しに行くなど、中核の存在となっていった。



慶応3年の晩秋の夜。
伊東を取り囲んだ数名で会議が開かれていた。

「新選組の実権は土方君よ。
やはり土方君を消すのが良いと思うんだけど」
新選組を潰す計画が練られていた。
伊東は新選組の性質から、幹部を潰せば瓦解すると考えた。
伊東の一声で、場は暗殺対象は土方に傾いていた。

同席している平助は、やや下がって、不快を隠さない仏頂面だ。
元々暗殺といった手段は性に合わない。
その上土方暗殺の話では、あからさまに不機嫌にもなるというものだった。
同じく同席している斎藤は、何を考えているのかわからぬいつもの無表情。


「斎藤君のお考えはどうなのかしら?」
視線が斎藤に集まった。
かつて斎藤は土方の信頼厚かった。
その斎藤が何を言うか。
底意地の悪い視線を送る者も混じっていた。


「俺なら局長を狙います」
「…………なぜ?」
伊東が先を促す。
斎藤は静かに口を開いた。
「まず、対外的に、副長死亡より局長死亡の方が影響が大きい。
大将の首を取られた新選組、となれば、恐るるに足らずともなる」
「…………それだけ?」

斎藤はひとつ息をついて続けた。

「副長土方の原動力は、近藤局長を上へ押し上げることにある。
近藤を取れれば新選組は一時的にせよ機動力を落とす。
土方をやりたければその時が良い。
また、近藤は別宅より通っている。狙いやすい。
狙いやすく、影響も大きいなら、局長近藤を取るのが筋」


平助は斎藤を、目を見開いて見た。
しかし斎藤は平助を見ない。
平助は不機嫌そのままに明後日の方角に顔を背けた。


「それもそうね。
土方君がなぜあんな近藤なんかに傾倒しているのか、この伊東には解りかねるけど。
近藤を失った土方君なら、別の使い道があるかもしれないわね……」
伊東はしばし思案顔をした後、パチリと手の中の扇子を鳴らした。
「新選組屯所から別宅へ向かう近藤のお命を頂戴しましょう。
斎藤君、やってくれるかしら?」
斎藤は黙って頷いた。





その時。
斎藤の耳にひそめた声が聞こえた。
「…………伊東さんが斎藤の意見を容れた。
伊東さんと斎藤はまだデキたまま……」

ドガッ!

斎藤は声の主を華麗に蹴り飛ばした。

「さ、斎藤君!?」
「俺にそっちの趣味は無い。全く欠片も寸分も無い。
今後そういった邪推は無用」
斎藤は静かに声の主に言った。
斎藤の後ろに何かが揺らめくように感じた声の主と周囲の者は、首を必死に縦に振った。

「……んもう……照れ屋さんねッ」
斎藤は伊東も蹴り飛ばした。
「すまぬ。そんな所に居たとは気づかなかった」

これ以降、この件は人の口に登らなくなった。





会議が終わり、三々五々散っていく。
「はじめ君!」
平助は、人目が無くなったのを確認して斎藤を呼び止めた。
「…………話なら後にしよう。
あの話の直後に俺とあんたが一緒に居ては、いかにも誤解を招く」
「……わかったよ」
平助は大人しく引き下がった。
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